可愛い嘘

「可愛い嘘」は、日本の歌手、弘田三枝子が1968年9月15日にリリースした通算37枚目となるシングルレコードのA面に収録された楽曲です。規格品番はP-37でした。この楽曲は、当時の日本のポピュラー音楽界において革新的な存在であった作曲家・編曲家の筒美京平が手がけており、作詞は橋本淳が担当しました。

本作は、アメリカの人気ヴォーカルグループ、テンプテーションズが1964年に発表した名曲「マイ・ガール」を意識した、いわゆる「モータウン歌謡」の代表的な作品として非常に高く評価されています。筒美京平は、本場のモータウンサウンドが持つ洗練されたアレンジやリズムを日本の歌謡曲に見事に昇華させました。その結果、「可愛い嘘」は発表から半世紀以上を経た現在でも、筒美京平の初期の傑作の一つとして、また日本の歌謡曲史における重要な一曲として多くの音楽ファンに語り継がれています。

楽曲の大きな魅力の一つは、もちろん弘田三枝子の歌唱です。圧倒的な歌唱力と豊かな表現力を持つ弘田は、この楽曲に登場する少し背伸びしたような、あるいは計算されたような可愛らしさを、巧みなヴォーカル表現で描いています。その歌声は、単にメロディーを追うだけでなく、歌詞の世界観を深く掘り下げ、主人公の心情を聴き手に強く訴えかける力を持っています。一部の音楽評論家からは、その表現力が「演技力抜群のカマトトヴォーカル」と評されることもあり、楽曲のタイトルである「可愛い嘘」というテーマを見事に体現していると言えるでしょう。

楽曲のキーは変ロ長調で構成されており、明快でありながらも情感を含むメロディーが特徴です。

このシングルのB面には、「砂に埋めた手紙」が収録されています。こちらは林春生が作詞を手がけ、A面同様に筒美京平が作曲・編曲を担当しています。A面とは趣を変え、4ビートのリズムを基調とした、イタリアのカンツォーネのような雰囲気を持った作品です。楽曲のリズム表現には特徴があり、楽譜に記譜する際には、一般的な4分の4拍子では三連符が多く用いられるため、演奏上の便宜や楽曲の持つノリをより正確に伝える目的で、12分の8拍子で表記されることもあります。

オリジナルとなる7インチシングル盤の歌詞カードには、単に歌詞が掲載されているだけでなく、A面曲「可愛い嘘」とB面曲「砂に埋めた手紙」のメロディー譜が共に印刷されていました。これは当時のシングル盤としては珍しいサービスであり、音楽をより深く楽しんでもらおうという制作者側の意図が感じられます。

楽曲のレコーディングには、コーラスとしてスリー・シンガーズが、演奏はコロムビア・オール・スターズが参加しています。B面はコロムビア・オール・スターズのみの演奏です。制作担当は東元晃が務めました。作詞を表す際に「作詩」と表記されている点も、当時の慣習を示す興味深い点です。

「可愛い嘘」は、弘田三枝子と筒美京平という稀代の才能が結実した一曲であり、日本の歌謡曲が世界の音楽潮流を取り込みつつ独自の発展を遂げていった時代を象徴する、記憶に残るシングルと言えるでしょう。リリースされた1968年は、国内外で様々な文化や社会情勢が変動していた時代であり、その中にあって生まれたこの楽曲は、当時の日本の若者文化や音楽シーンにも影響を与えた可能性が示唆されます。

本楽曲は、その後の筒美京平の活躍を予感させる初期の重要な作品であると同時に、弘田三枝子の卓越した表現力が改めて注目されるきっかけともなりました。日本のポピュラー音楽史を語る上で、外すことのできない一曲として、現在も多くのファンに愛聴されています。

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