右院

明治初期の日本、すなわち大政奉還後の新たな国家体制が模索されていた時代において、太政官の中に特異な組織が設置されていました。それが「右院（ういん）」です。

右院は、1871年（明治4年）に公布された「太政官職制」の改定に伴い、正院、左院とともに創設されました。これら三つの機関が並立した体制は、後に太政官三院制として知られることになります。この三院制の導入には、それ以前の二官六省（神祇官・太政官と六つの省）という体制下で、各省庁がそれぞれ独立性が強く、意見の対立や政策の連携不足が頻繁に発生していたことへの反省が強く反映されていました。そこで、政府全体の意思決定と行政運営をより円滑に進めるための組織改編が図られたのです。

この三院制において、それぞれの院は明確な役割分担を持っていました。まず正院は、太政大臣、納言（後に左右大臣）、参議などの要人によって構成され、政府の中枢として最終的な政策決定や重要政務を司る最高機関と位置づけられました。次に左院は、議長以下、各方面から選ばれた議員で構成され、主に立法に関する審議を行う機関、いわば初期の議会としての役割を担いました。そして右院は、各省庁の長官である卿と、それに次ぐ次官である大輔によって構成されました。右院に課せられた主要な任務は、各省庁の意見を調整し、共通認識を形成すること、そして政府全体の政策執行における連携を強化するための審議を行うことでした。すなわち、省庁間の壁を取り払い、政策の整合性を図るための調整機関としての機能が期待されていたのです。

しかし、右院はその期待された役割を十分に果たす上で、いくつかの課題に直面しました。まず、その権限が正院に比べて著しく限定的であった点です。右院で議論され、決定された事項も、最終的には正院の裁決を経て初めて効力を持つという構造になっており、自律的な決定権を持たなかったため、正院の意向に左右されがちでした。また、当時の政府内で特に大きな権限を誇っていた大蔵省の存在も、右院の円滑な運営を妨げる要因となりました。大蔵省は財政を掌握していたことから、他の省庁よりも強い発言力を持ち、時に右院での調整を経ずに独自の決定を下すこともあったとされ、これが右院の機能不全を引き起こす一因となったのです。

右院の存在は、わずか数年で終わりを告げます。1875年（明治8年）4月14日、明治天皇により「立憲政体の詔書」が発布され、国会開設に向けた具体的な方針が示されました。この詔書と同時に、政府組織の再編が行われます。太政官第59号布告により、新たな立法機関である元老院と、司法機関である大審院が設置されることが定められました。これに伴い、それまで立法審議を担っていた左院と、各省調整を担っていた右院は、その役割を終え、廃止されることになったのです。

右院は、短命に終わった組織ではありましたが、明治政府が中央集権的な行政体制を構築する過程で、省庁間の連携不足という課題を認識し、その解決を図ろうとした試みの一環として位置づけることができます。その経験は、その後の日本の統治機構の発展に何らかの形で影響を与えたとも考えられるでしょう。

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