吉永義信

吉永 義信：日本の庭園史と文化財保護に捧げた生涯

吉永 義信（よしなが よしのぶ、1895年10月21日 - 1985年4月3日）は、日本の近代における傑出した庭園史研究者であり、文化財保護に多大な功績を残した人物です。広島県に生まれた吉永は、その生涯の実に54年間という長きにわたり、日本の貴重な文化遺産である名勝、とりわけ庭園の保存活動に深く関わりました。

教育と研究の道へ

吉永は、まず旧制第六高等学校で学び、その後1922年（大正11年）に東京帝国大学農学部農学科を卒業しました。大学では「大都市における公園墓地」に関する卒業論文を執筆しています。卒業後は同大学の大学院に進み、造園学の大家である原煕のもとで専門的な研究を深めました。大学院在学中から実務に関わり、内務省が刊行した最初の名勝調査報告書に掲載された庭園の実測図全てを作成するなど、早くからその才能を発揮しました。大学院での学びは1927年（昭和2年）3月まで続きました。

半世紀にわたる文化財保護への献身

吉永のキャリアの大きな柱は、国の史蹟名勝調査への貢献です。内務省からの委嘱を皮切りに、所管が文部省、そして文化庁へと移る中でも一貫してこの調査を担当しました。1976年（昭和51年）に至るまで、実に半世紀以上にわたり、日本各地の古庭園を調査し、その文化財としての価値を見極め、指定を進める中心的役割を担いました。この地道な活動が、今日の日本の庭園文化財保護の基盤となっています。

公的な立場としても、文化財保護行政に深く関与しました。1928年（昭和3年）からは文部省の史蹟名勝天然記念物調査会委員を務め、戦後の1950年（昭和25年）から1970年（昭和45年）にかけては保護審議会の委員として、文化財の保護・活用の政策決定に関わりました。文化庁が発足した1968年（昭和43年）以降もその要職にあり、1976年（昭和51年）に文化財保護審議会第三専門調査会の名勝部会長を最後に、公職から退きました。

学術的な功績と教育活動

吉永の学術的な業績も顕著です。1933年（昭和8年）には日本造園学会の評議員に選ばれ、学会活動にも貢献しました。1940年（昭和15年）には東京大学より農学博士の学位を取得し、1943年には日本農学会農学賞を受賞するなど、その研究は高く評価されました。また、教育者としても後進の育成に努め、1943年（昭和18年）から1952年（昭和27年）まで東京大学農学部で庭園史の講師を務めました。

さらに、1950年（昭和25年）からは東京家政学院短期大学で教授として教鞭をとり、1966年（昭和41年）の退職後には名誉教授の称号を得ています。このほか、1949年（昭和24年）から1970年（昭和45年）までの間、東京都公園審議会の委員を務めるなど、都市の緑地や公園行政にも関心を寄せました。

主要な著作と研究対象

吉永義信は、日本の庭園史に関する数多くの重要な著作や論文を発表しています。代表的な単著としては、『慈照寺庭園の変遷を論ず』（1940年）、『日本の庭園』（1958年、至文堂および彰国社より）、『日本庭園の構成と表現』（1962年）、そして集大成ともいえる『日本庭園史』（1985年）などがあります。これらの著作や論文からは、慈照寺や鹿苑寺といった特定の著名な庭園の歴史的研究、室町時代など各時代の造園技術、庭園の復原といった幅広いテーマへの深い洞察がうかがえます。

結び

長年にわたる文化財保護への功績が認められ、1965年には勲四等旭日章を受章しています。吉永義信は、日本の庭園の歴史を深く掘り下げた研究者として、また、その貴重な遺産を国の宝として守り伝えるための行政実務に尽力した専門家として、日本の庭園史研究と文化財保護の分野に測り知れない貢献を残しました。その功績は、今日の日本の庭園文化の継承において重要な意味を持ち続けています。

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