吉江藩

吉江藩：越前国の短い歴史

概要

吉江藩は、現在の福井県鯖江市吉江町に存在した、短命に終わった藩です。藩庁は吉江陣屋（吉江館）に置かれ、2万5000石の知行高を有していました。その歴史は、福井藩からの分領によって始まり、わずか30年で福井藩に吸収合併されるという短いものでした。しかし、その短い期間にも関わらず、吉江藩は地域社会に痕跡を残し、近松門左衛門との関わりも注目されています。

藩の成立と歴史

吉江藩の成立は、福井藩主・松平光通が、異母弟の松平昌明（のちの昌親）に2万5000石を分与したことに始まります。昌明は慶安元年（1648年）、吉江に陣屋を構え、吉江藩が成立しました。しかし、藩領は越前国内に点在しており、藩としてのまとまりは弱く、福井藩への依存度も高かったと考えられています。明暦元年（1655年）、昌明が吉江に入部し、陣屋や町並みの整備が進められました。しかし、延宝2年（1674年）、兄の光通が死去すると、昌明は福井藩主を継ぎ、吉江藩は廃藩となりました。

吉江陣屋と町並み

吉江陣屋は東西100メートル、南北120メートルほどの規模と推定されていますが、現存する遺構はほとんどありません。鯖江市杉本町の西光寺の表門が、吉江陣屋の表門を移築したものであることが唯一確認されています。陣屋を中心に、七曲りと呼ばれるメインストリートを中心とした町並みが形成されており、その一部は現在も残っています。その他、家中跡、制札場跡、大手門跡などの痕跡と、「榎清水」と呼ばれる湧水も残されています。

近松門左衛門との関わり

近松門左衛門は、吉江藩との関わりが指摘されています。近松の父、杉森信義は、福井藩士として仕えた後、吉江藩に仕えたとされています。従来は福井市生まれとされてきましたが、昌明の吉江入部前に家臣団が吉江に移住していた可能性も指摘されており、近松の生誕地についても鯖江市とする説が出てきています。近松が11歳になる寛文4年（1664年）に父が吉江藩を辞するまで、彼は吉江で過ごしたとされています。鯖江市には、近松門左衛門を記念する施設や銅像などが建立されています。

吉江藩の意義

吉江藩は、30年という短い歴史しか持ちませんでしたが、その存在は鯖江市の歴史に深く刻まれています。藩庁跡や近松門左衛門との関わりなど、藩の痕跡は現在も残っており、地域の文化や歴史を理解する上で重要な存在となっています。わずか30年の歴史でありながらも、近松門左衛門との関わりや、わずかに残る遺構、そして七曲りの道路などから、その存在を伺い知ることができます。吉江藩は、福井藩の分家として誕生し、その後本家である福井藩に吸収された、短命に終わった藩ではありましたが、その存在が地域社会に与えた影響は決して小さくなかったと言えるでしょう。

歴代藩主

* 松平昌明（のちの昌親）：吉江藩初代藩主。後に福井藩主となる。

結論

吉江藩は、短い歴史ながらも、地域社会に痕跡を残した藩でした。その歴史を紐解くことで、近世日本の地方社会の一側面を知ることができるでしょう。また、近松門左衛門との関わりは、吉江藩の歴史的意義をさらに高めるものです。

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