吉田本源氏物語

吉田本源氏物語

吉田本源氏物語は、東洋大学名誉教授を歴任された故吉田幸一氏が所有していた源氏物語の写本群を指します。その中には、極めて貴重な写本が含まれており、現在も源氏物語研究において重要な資料として活用されています。

吉田本源氏物語として知られる写本は大きく分けて2種類あります。

1. 鎌倉時代の源氏物語写本

一つ目は、鎌倉時代に書写されたと推定される54帖揃いの源氏物語写本です。この写本は、現在では一般的に「伏見天皇本源氏物語」と呼ばれており、その精緻な書写と高い芸術性から、古写本の研究において重要な位置を占めています。吉田氏が所蔵していたこの写本は、その後の研究に大きく貢献したと同時に、源氏物語の成立や流布の歴史を解き明かす上で貴重な手がかりを提供しています。完全な形で現存する鎌倉時代の源氏物語写本は非常に稀少であるため、この写本は学術的な価値だけでなく、歴史的にも非常に重要な資料と言えるでしょう。

2. 注釈付き葵巻断片

もう一つは、源氏物語の注釈書である水原抄の一部分、葵巻の一部のみが残された注釈付きの写本です。水原抄は、河内氏が記したとされる源氏物語注釈書ですが、大部分は散逸してしまっているため、現存する断片は非常に貴重です。この断片は、弘文荘反町茂雄氏、遠藤武氏を経て、吉田氏の手に渡ったとされています。この注釈付きの写本は、平安時代から鎌倉時代にかけての源氏物語の解釈や理解を知る上で、重要な手がかりとなるでしょう。断片とはいえ、注釈が記されていることで、当時の読解法や、テキストに対する解釈の多様性を理解する上で貴重な資料と言えます。水原抄そのものの研究にも繋がる、極めて貴重な資料と言えるでしょう。

吉田本源氏物語の意義

これらの写本は、いずれも源氏物語研究において極めて重要な資料です。特に、鎌倉時代の54帖揃いの写本は、その完全性と高い書写技術から、源氏物語成立史研究に大きく貢献しています。一方、注釈付きの葵巻断片は、水原抄という失われた注釈書の断片を伝える貴重な資料であり、平安時代から鎌倉時代にかけての源氏物語解釈を知るための貴重な手がかりとなっています。吉田氏がこれら貴重な写本を収集・保存した事実は、日本の古典文学研究に大きな貢献を果たしたと言えるでしょう。これらの写本の詳細な分析を通じて、源氏物語の成立過程、テキストの変遷、そして当時の社会状況や文化風習などを多角的に考察していくことが可能となります。今後の研究においても、これらの資料の活用が期待されます。

今後の研究

吉田本源氏物語は、今後も詳細な研究が続けられるでしょう。写本の書写年代の特定、書写された環境の解明、注釈の検討など、様々な角度からの研究が、源氏物語研究に新たな知見をもたらすと期待されます。これらの研究を通して、源氏物語という作品への理解を深め、日本の古典文学研究の発展に貢献していくことが重要です。

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