吉草酸

吉草酸（きっそうさん、valeric acid）は、独特の不快な臭いを持つ短鎖カルボン酸の一種であり、IUPAC系統名ではペンタン酸 (pentanoic acid) と呼ばれます。特に、足の裏の臭いの原因となるイソ吉草酸は、吉草酸の異性体として知られています。

性質

吉草酸は無色の液体で、蒸れた靴下のような不快な臭気を有します。pKa は 4.82 の弱酸ですが、人体に対して腐食性を示す場合があります。水への溶解度は 2.4g/100mL であり、極性溶媒よりも無極性溶媒によく溶ける性質を持ちます。これは、比較的分子量の小さいカルボン酸に共通する特徴です。

異性体

吉草酸には、構造異性体としてピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、イソ吉草酸などが存在します。ヒドロアンゲリカ酸は分子内に不斉炭素原子を持つため、光学異性体が存在します。

ピバル酸
ヒドロアンゲリカ酸
* イソ吉草酸

発見

吉草酸は、ヨーロッパ原産のハーブであるセイヨウカノコソウ（吉草、学名 Valeriana officinalis L.）から最初に発見されました。セイヨウカノコソウは、古くから薬草として利用されており、吉草酸はその有効成分の一つとして知られています。

用途

吉草酸のブチルエステルやペンチルエステルなどのエステル誘導体は、適切な濃度で使用すると果実のような芳香を呈するものがあります。そのため、食品用のフレーバーとして広く利用されています。これらのエステルは、香料として、キャンディー、飲料、焼き菓子などに添加され、風味を向上させる目的で使用されます。

吉草酸は、その独特の臭気から悪臭防止法の規制対象となる一方で、適切な用途においては有用な化合物として利用されています。

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