名古屋オリンピック構想

名古屋オリンピック構想：幻に終わった夢

名古屋オリンピック構想は、1988年夏季オリンピックの開催を目指し、愛知県名古屋市が中心となって進められた計画でした。しかし、1981年のIOC総会での投票の結果、ソウルが開催都市に決定し、名古屋でのオリンピック開催は実現しませんでした。この構想は、当時の社会情勢や政治的な背景、そして市民の反対運動など、様々な要因が絡み合い、幻に終わった壮大なプロジェクトでした。

構想の概要

1976年秋、大阪市長の「大阪でオリンピックを」という発言をヒントに、名古屋商工会議所会頭だった三宅重光が「名古屋オリンピック誘致」を思いつきました。1977年4月、三宅は愛知県知事にオリンピック構想を提案し、同年8月には仲谷知事によって構想が発表され、招致運動が始まりました。しかし、官主導の招致に対し、住民の一部からは財政負担や環境破壊を理由とした反対運動も起こりました。

開催計画の詳細

計画では、1988年10月8日から23日までの16日間で開催される予定でした。出場選手数は約8,000人、役員・選手総計は約10,800人、観客動員数は延べ350万人を見込んでいました。開催費用は8416億円（関連公共事業含む）と試算され、メイン会場は名古屋市平和公園南部に建設される「オリンピックパーク」に置かれる予定でした。メインスタジアムは、開閉会式、陸上競技、サッカーに使用される予定で、固定4万人、仮設含め7万人の収容を見込んでいました。その他、水泳、体操、バスケットボール、ボクシング、ボート、カヌー、自転車、馬術、フェンシング、サッカー、水球、ハンドボール、ホッケー、柔道、ピストル射撃、ライフル射撃、ウエイトリフティング、レスリング、セーリングなど、様々な競技施設が愛知県、岐阜県、三重県の東海3県に分散して配置される計画でした。

招致失敗の原因

招致失敗の原因は、様々な要因が複合的に絡み合っています。

楽観的な見込みと油断: ライバルと目されていたメルボルンが招致を断念したことで、名古屋優位という楽観的な見方が広まりました。しかし、冷戦下という当時の国際情勢から、ソ連や東欧諸国がソウル開催に反対するとは限らず、名古屋の優位性は確固たるものではありませんでした。
中央からの異論: オリンピックのような国家的なイベントを名古屋で開催する理由や、スポーツ理念が不明瞭であった点が指摘されました。「東京五輪・大阪万博の次は名古屋」という単純な順番思想は、スポーツ関係者から批判を受けました。
国庫補助をあてにした開催費用試算: モントリオール五輪の巨額な負債を教訓に、財政問題に対する懸念が強まりました。政府や大蔵省は、多額の国庫負担に難色を示し、財政再建を優先する姿勢を示しました。
財界の支持を失う: 中央財界は、名古屋オリンピック開催による経済効果に疑問を持ち、ソウル開催を支持する動きもありました。また、名古屋財界内部でも、誘致に積極的な姿勢を示すのは一部に限られ、トヨタグループは冷淡な態度を示しました。
国際感覚の欠如: 共産圏の動向やアジア諸国の事情に対する認識不足がありました。また、日本のスポーツ用品メーカーが国際公認を得ていたことが、ソウル開催を有利にする要因となりました。
不活発だったロビー活動: ソウル側がIOC委員への積極的なロビー活動を展開する一方で、名古屋側は控えめな姿勢に終始し、国際的な知名度の低さを克服できませんでした。
* 市民からの反対運動: 財政負担や環境破壊を理由に、市民団体が反対運動を展開し、招致活動に水を差しました。

招致失敗の影響

招致活動に3億9千万円を費やした名古屋市は、経済的な損失を被りました。また、地元テレビ局や新聞社は、開催決定を前提とした特別番組や広告特集を準備していましたが、全て無駄に終わりました。しかし、名古屋オリンピック構想は、その後の愛・地球博（愛知万博）開催へとつながり、地域振興の契機となりました。2026年には、名古屋市と愛知県などを会場としたアジア競技大会の開催が決定し、再び国際的なスポーツイベントの舞台となります。

市民からの反対運動

楽観ムードからの油断に加えて、前述の反対運動の影響が挙げられます。また中日新聞社は、名古屋五輪に対しては「慎重賛成」としており、諸手を挙げての積極的な賛成ではありませんでした。
後年になって、五輪招致に名古屋市民は一丸となり、落選には一様に落胆したと言われることもあります。しかし、実際には反対活動が存在しました。『中日新聞』は、落選時に反対団体と開催に反対であったという名古屋市民の声も報じています。1981年7月に朝日新聞社が行った世論調査でも、名古屋五輪に賛成が52%、反対が24%でした。開催中心地の名古屋市民に限ると、賛成は45%と過半数割れし、反対は39%と接近した数字であり、決して圧倒的な支持ではありませんでした。なお、反対の主な理由は、最大のライバルであったメルボルンと同様、財政負担や地価物価の高騰への懸念でした。

まとめ

名古屋オリンピック構想は、様々な要因が重なり合い、幻に終わった壮大な夢でした。しかし、この構想は、名古屋の地域振興や国際化に大きな影響を与え、その後の愛知万博開催やアジア競技大会招致へとつながっていきました。名古屋オリンピック構想は、私たちに多くの教訓を残し、未来への希望を繋ぐプロジェクトとして、語り継がれていくでしょう。

もう一度検索