告訴せず

小説『告訴せず』の概要

松本清張による長編小説『告訴せず』は、1973年から1974年にかけて『週刊朝日』に連載され、加筆の上で光文社から刊行された。物語は、告訴できない犯罪を背景にした逃亡者の人生を描いたクライム・サスペンスである。1975年には東宝系で映画化され、広く知られる作品となった。

あらすじ

物語は、日本の総選挙の真っ最中に始まる。主人公の木谷省吾は、義弟であり保守党系代議士の大井芳太から、違法に獲得した選挙資金を逃避行の最中に持ち逃げする。木谷を告訴すると、大井芳太の選挙違反が発覚するため、警察も手を出せずにいた。逃避生活を楽しむ木谷だが、彼の心には不安がつきまとっていた。

ある日、彼は温泉旅館の女中であるお篠と出会う。お篠は、比礼神社の神託が的中するという話を木谷に耳にする。神主から「今年の小豆は凶作」との託宣を受けた木谷は、偽名である「福山誠造」として小豆相場への投資を開始する。彼は逃亡者としての生活と投資の両方に取り組むが、相場の動向に一喜一憂する日々を過ごす。

その後、運良く投資は成功を収め、新たな商業への第一歩を踏み出せる状況が見えてきた。しかし、勝ち逃げの夢は果たして本当に実現するのか、それとも新たな試練が待ち受けているのか、物語は一層の緊張感を帯びて進行する。

主な登場人物

• - 木谷省吾：46歳。美作地方で大衆食堂を営んでいたが、義弟や妻から馬鹿にされ、鬱屈した日々を送っている。逃避行の中で自己再生を図ろうとする。
• - お篠（浜島シノ）：木谷と同棲し、未来に夢を描く旅館の女中。
• - 小柳一男：穀物仲買業者で、木谷の投資活動をサポートする。
• - 大井芳太：木谷の義弟であり、選挙資金の持ち逃げの被害者。
• - 光岡寅太郎：大井の選挙参謀で、地元の暴力団と関係を持っている。

映画化

1975年に映画『告訴せず』として製作され、青島幸男をはじめとする多彩なキャストが集結。物語の緊迫感や登場人物たちの心情を巧みに描いたこの映画は、今なお多くのファンに愛されており、DVD化も行われている。

この作品は、松本清張の代表作の一つとして、社会や人間に対する鋭い洞察を提供している。本作を通じて、ただの犯罪小説以上の、深い人間ドラマが広がっており、多くの読者に影響を与え続けている。

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