味の招待席

『味の招待席』：関西の食文化を彩った名番組

1980年11月から1992年3月まで、朝日放送テレビ（ABCテレビ）で放送された『味の招待席』は、関西の食文化を深く掘り下げた人気グルメ番組でした。月曜日から金曜日までの夜に放送され、サントリーの一社提供で、長きにわたり多くの視聴者の胃袋と心を掴みました。

番組の顔は、落語家で人間国宝の桂米朝師匠。米朝師匠の落ち着いた語り口と、時にユーモラスな語り口調が、番組の魅力をさらに高めていました。独特の雰囲気と存在感は、番組全体を包み込むような温かさを感じさせました。米朝師匠が病気で出演できない場合は、桂小文枝（後の五代目桂文枝）さんが代役を務め、その円滑な進行も番組の安定感を支えていました。

『味の招待席』最大の魅力は、関西各地の名店が紹介された点です。厳選された老舗から、地元で愛される隠れた名店まで、番組では様々な料理が取り上げられました。単に料理が完成した状態を紹介するだけでなく、調理工程を丁寧に映し出すことで、視聴者はまるでその店にいるかのような臨場感を味わうことができました。

米朝師匠は、タキシード姿で毎回出演。フォーマルな服装と、家庭的な料理番組という組み合わせが、独特のアンバランスな魅力を生み出していました。料理の作り方や歴史、材料へのこだわりなど、米朝師匠の落ち着いた語り口で丁寧に解説される様子は、見ている者の食欲を刺激するだけでなく、食への知識を深める機会にもなりました。

番組のオープニングを彩る音楽は、バッハのチェンバロ協奏曲第4番イ長調BWV1055（オーボエ・ダモーレ協奏曲からの編曲）第三楽章。洗練された旋律は、番組の格調高い雰囲気をさらに際立たせていました。

放送時間は当初、月曜日から木曜日は21時54分から22時、金曜日は22時54分から23時でした。その後、他の番組編成の変更に伴い、放送時間が何度か変更されました。最終的には、月曜日から金曜日まで21時54分から22時という放送枠に落ち着きました。枠自体は6分間でしたが、CMとステーションブレイクを除くと、実際の番組時間は3分間というコンパクトな構成でした。

『味の招待席』は、単なるグルメ番組という枠を超えて、関西の食文化を伝える貴重な番組でした。米朝師匠の温かい語り口、厳選された名店、そしてバッハの音楽という、これら全てが調和した番組は、多くの視聴者の記憶に深く刻まれています。番組終了後には、『桂米朝 味の招待席』という書籍も出版され、番組の魅力を改めて伝えるとともに、番組を愛した人々にとって、貴重な資料となっています。また、テレビ東京で放送された『すばらしい味の世界』は、提供スポンサーも同じサントリーで、コンセプトも酷似していた番組として知られています。

『味の招待席』は、単なる料理番組ではなく、関西の食文化を伝える、そしてその温かさを伝える、時代を超えて愛される名番組として、今なお語り継がれていると言えるでしょう。

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