和気村

和気村（わけむら）

愛媛県北部の瀬戸内海沿岸部に位置し、かつて愛媛県和気郡、後に温泉郡に属していた自治体が和気村です。現在の松山市の北西部に概ね該当する地域にあたります。この村は、明治時代に複数の村が合併して誕生し、昭和初期の広域合併により松山市の一部となって自治体としての歴史を終えました。

村の成り立ちと歩み

和気村は、1889年（明治22年）12月15日、当時の町村制施行に伴い誕生しました。それまで独立した村であった和気郡の和気浜村、馬木村、太山寺村が一つに統合され、「和気郡和気村」として新たな一歩を踏み出しました。

発足からわずか数年後の1897年（明治30年）4月1日、郡制の変更により和気郡は温泉郡に編入されることとなり、和気村も温泉郡所属へと変更されました。

昭和期に入ると、周辺自治体との連携強化や行政効率化の流れが進みます。そして、1940年（昭和15年）8月1日、和気村は三津浜町、味生村、桑原村、堀江村、潮見村、久枝村といった近隣の6つの町村と共に、大規模な合併によって松山市へと編入されました。この合併により、和気村は自治体としては消滅し、その区域は松山市の一部となりました。

村の産業

和気村の経済を支えていた主要な産業の一つに農業がありました。肥沃な土地を活用した農業は、地域住民の暮らしの基盤であり、多くの農家によって営まれていました。当時の農業状況を記録した『大日本篤農家名鑑』には、積極的に農業振興に取り組む篤農家として、渡部福太郎氏や須之内義信氏をはじめとする複数の人物の名が残されており、彼らが地域の農業発展に貢献していたことがうかがえます。

農業以外にも、村内には地域経済を支える企業が存在しました。代表的なものとして、清酒の製造を手がける「和気酒造」がありました。この酒造は、和気村大字和気濱に本店または主な事務所を構え、代表者は芳野森次郎氏でした。地元の産物を活かした酒造りは、村の特色を示す産業であったと考えられます。

交通基盤

村の交通においては、鉄道の存在が重要でした。当時、国鉄が運営していた讃予線（現在のJR予讃線）が村域を通り、村内には伊予和気駅が設置されていました。この駅は、住民が都市部へ移動する際や、農産物・工業製品などを輸送する上での主要な拠点として機能し、地域の交通と物流を支えていました。

地域に伝わる名所と文化遺産

和気村とその周辺地域は、長い歴史の中で育まれた豊かな文化と信仰の場が多く残されています。特に、四国八十八ヶ所霊場巡りにおいては、重要な札所が二つも村内に位置していました。第五十二番札所である太山寺（たいさんじ）と、第五十三番札所である圓明寺（えんみょうじ）は、多くの遍路が訪れる地として知られています。これらの寺院は、地域の精神的な支柱でもありました。

また、仏閣だけでなく、古くから地域を見守ってきた神社も複数ありました。大字馬木には善福寺、大字太山寺には勝岡八幡神社や、その字船ヶ谷に位置する諸山積神社、大字馬木の字佐古岡には佐古岡神社などがあり、それぞれの地域で祭祀が行われ、人々の生活と密接に結びついていました。

参考文献

本記事の記述は、当時の地方誌や産業に関する記録、具体的には『大日本篤農家名鑑』、『新編温泉郡誌』、『愛媛県会社並ニ工場通覧 昭和10年12月末日現在』などを参考にしています。これらの文献は、和気村が自治体として存在した時代の貴重な情報源となっています。

関連情報

愛媛県内では、和気村のように昭和初期の市町村合併によりその歴史を終えた自治体が多数存在します。これらの廃止された市町村に関する情報は、「愛媛県の廃止市町村一覧」といった項目でより詳しく調べることができます。

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