唇をうばう前に

唇をうばう前に - アニタ・ムイの日本デビューシングル

「唇をうばう前に」（英語表記: Before The French Kiss）は、香港出身でアジア全域にその名を知られた実力派歌手、アニタ・ムイが日本の音楽市場に向けてリリースした最初の日本語歌唱シングル盤です。この作品は7インチのアナログレコードとして、1983年3月21日に当時国内の大手レコード会社であった東芝EMI（現在のユニバーサルミュージックジャパン）から発売されました。香港楽壇で既に確固たる地位を築いていた「アジアの歌姫」が、本格的に日本進出を果たすための第一歩として位置づけられる記念碑的なシングルです。

リリースと背景

本作の表題曲「唇をうばう前に」は、同年に開催された「第12回東京音楽祭」への参加楽曲として制作されました。国際的な音楽祭への参加は、アニタ・ムイというアーティストを日本の聴衆に紹介する絶好の機会であり、このシングルはその参加を機に企画されたものです。シングル発売に伴い、プロモーション活動の一環として制作されたミュージックビデオは、香港で広く公開されました。このビデオのロケ地には、日本の首都・東京が選ばれており、特に品川に位置する新高輪プリンスホテルおよびその周辺地域で撮影が行われ、当時の東京の風景が収められています。

日本での制作活動

シングルのレコーディングやジャケット写真の撮影といった制作プロセスを進めるため、アニタ・ムイ本人はおよそ10日間日本に滞在しました。この短い期間に、彼女は東京音楽祭へエントリーするための楽曲レコーディングや、このシングルのための歌唱パートの録音などを集中的に行ったと考えられます。異国の地での滞在は、多忙なスケジュールの中で行われましたが、日本のスタッフと共に作品を作り上げる貴重な経験となりました。

ジャケットデザイン

シングルのジャケット写真は、写真家の塚田和穂氏が担当しました。アニタ・ムイが香港のメディアやステージで見せていた力強く、やや成熟した華やかなイメージとは異なり、このジャケットで採用されたポートレートは、当時の日本の歌謡界で主流だった女性アイドルを思わせるような、柔らかく、親しみやすい雰囲気に仕上がっています。これは、日本の市場における彼女のブランディングを意識したものでしょう。

シングルのジャケット裏面には、収録曲の歌詞が掲載されています。また、アニタ・ムイの簡単なプロフィールも記載されており、特技として「ドラムス」が挙げられている点も興味深い情報です。このプロフィールは、日本のファンに彼女の人となりを紹介する役割を果たしました。

収録曲

本作には、表題曲を含む複数の楽曲が収録されています。具体的な収録曲名はジャケット裏面に明記されています。

「唇をうばう前に」は、アニタ・ムイという偉大なアーティストが日本の音楽シーンに残した最初期の足跡として、今なお語り継がれる重要な一枚です。このシングルが、その後の彼女の多岐にわたる活動や、日本を含むアジア全域での不動の人気を確立する上での礎となったことは言うまでもありません。

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