喜びの琴

戯曲『喜びの琴』について

『喜びの琴』（よろこびのこと）は、日本の著名な作家三島由紀夫による戯曲で、1964年に発表されました。この作品は、公安巡査片桐が上司の裏切りを経験する悲劇を中心に展開し、全3幕から構成されています。物語は、反共思想とそのアンチテーゼ、そしてニヒリズムを通じて描かれる人物の心理を探求しています。

作品の概要

『喜びの琴』は、複雑なテーマを持っており、第一幕では反共思想が描かれ、第二幕ではその対極に位置する意見が展開されます。最終幕では、主人公が直面する内面的な葛藤と絶望がニヒリズムとして具現化されています。この作品は、三島自身が「観客を驚かせるようなスリルに富んだ、面白い芝居を描こうとしていた」と語るように、公安活動という題材を扱っています。

背景と発表までの経緯

『喜びの琴』は、1963年の秋に執筆が完了し、1964年の正月公演として文学座での上演が計画されていました。しかし、当時の政治的な背景や思想の影響により、上演が中止されるという波乱の経過を辿ります。この上演中止は、三島と約十数名の座員による脱退事件を引き起こし、その後の三島の創作活動や評価に大きな影響を与えました。この事件は後に「喜びの琴事件」として知られることとなります。

物語の進行

物語は、近未来の日本の公安署を舞台にしています。公務に従事する片桐巡査とその上司松村は、極左のテロ計画を阻止すべく奮闘します。第一幕では、彼らがテロ計画の情報を手に入れるために苦労している様子が描かれています。第二幕では、計画の実行に至らず悲劇的な結果となり、片桐が英雄視される一方で、その真実が明らかになっていきます。

裏切りと孤独

最終幕では、片桐が自身の信頼していた上司が実は極左のスパイであったことを知る場面が印象的です。この発覚は彼の人生を一変させ、不信と孤独をもたらします。三島は、片桐の裏切りの悲劇を通じて人間関係の脆さや、思想の影響の深さを浮き彫りにしています。

作品の評価

『喜びの琴』は発表以来、様々な視点から評価されています。否定的な意見もあれば、肯定的な評価も存在します。一部の批評家は、作品における主題と題材の調和の欠如を指摘していますが、他方で反共劇としての意義や、心理劇としての緊迫感を称賛する声もあります。

影響とその後の展開

三島は、本作を通じて日本の戦後思想や信頼の危機を描こうとしていました。彼はまた、思想の絶対化と個人の孤独に関する深刻な問いを提示しました。これによって、観客は自らの信念や価値観を再考せざるを得なくなるのです。

『喜びの琴』は、三島由紀夫の戯曲としての特異な位置を占め、彼の文学における重要な一端を形成する作品として評価され続けています。

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