四季連禱

「四季連禱（しきれんとう）」は、日本の作曲家、長生淳氏がヤマハ吹奏楽団からの委嘱を受けて作曲した一連の吹奏楽作品群を指す名称です。具体的には、4曲の吹奏楽曲からなる四部作、すなわち『波の穂』『蒼天の滴』『翠風の光』『楓葉の舞』の総称として用いられるほか、この四部作を基盤として新たに作曲された交響曲第3番のタイトルとしても使われます。これらの作品には、四季の移ろいに寄せて、健やかな季節の循環や、あるべき人間としての姿への祈りが込められています。

吹奏楽四部作版

ヤマハ吹奏楽団の依頼により、四季をテーマに作曲された各曲は、2000年から2003年にかけて毎年1曲ずつ発表されました。当初、作曲家は必ずしも連作とする意図は持っていませんでしたが、継続的な委嘱を受ける中で、次第に全体を一つのまとまりとして構成することを意識し始めたといいます。組曲や交響曲とは位置づけられていないものの、各曲には共通する特定の音楽的動機が用いられており、また意図的に語法も統一感が持たされています。作曲者は、これらの作品を通して「聴衆の人間らしい感性に強く働きかけたい」という願いを特に強く込めたと述べています。

四部作のタイトル「四季連禱」には、「四季に事寄せて祈るもの…すこやかな季節の巡り、ひいてはあるべき姿であること」という作曲家の思いが反映されています。この四部作は、2005年にブレーン株式会社より同名のCDとして発売され、多くの吹奏楽愛好家に親しまれています。

各曲はそれぞれ特定の季節に着想を得て描かれています。

波の穂（なみのほ）：冬を表現した楽曲です。雪が舞い、風や波も荒れる冬の海原からインスピレーションを得て生まれました。「遠江（とおとうみ）」という地名から導き出された「ト・ト・ミ」、すなわち音名G-G-Eの動機が基本音型として用いられています。冬の厳しい寒さと対峙しつつも、それに圧倒されず、力強く人間らしくありたいという願いが音楽に託されています。
蒼天の滴（そうてんのしずく）：春の情景を描いた楽曲です。春らしい明るく軽やかな音楽の中に、時折、厳しかった冬の残響を感じさせるような激しいフレーズが顔を覗かせます。清々しいエンディングは「春への賛歌」であり、陽光をいっぱいに浴びた大地をイメージさせます。
翠風の光（すいふうのひかり）：夏、特に初夏の輝きを捉えた楽曲です。四部作の中で唯一、4つの楽章を持つ多楽章構成で書かれています。ただし、直接的に初夏の風景を描写しているのは第4楽章のみで、その前の3つの楽章は、この喜びあふれる季節に至るまでの「心の道のり」を表現しています。明快な構成とストーリー性から、吹奏楽コンクールの自由曲としてしばしば演奏機会を得ています。（楽章構成：Dolente, Larghetto, Moderato, Vivo）
楓葉の舞（ふうようのまい）：秋をテーマにした楽曲です。タイトルは、初演に際して一般公募されたものの中から選ばれました。この曲の作曲中に、ヤマハ吹奏楽団を辞める団員がいたこと、そして作曲家自身もこの曲をもって楽団との一区切りをつけることになるという感傷が、音楽の「秋らしさ」を深く引き出したと語られています。この曲もまた、吹奏楽コンクールで頻繁に取り上げられています。

交響曲第3番「四季連禱」

吹奏楽四部作の総演奏時間は約80分に及びますが、これをより集約し、連続して演奏可能な作品として新たに構想されたのが、交響曲第3番「四季連禱」です。これもヤマハ吹奏楽団から委嘱され（2016年）、2018年6月23日にアクトシティ浜松大ホールで行われた第52回定期演奏会において、須川展也氏の指揮、ヤマハ吹奏楽団の演奏により世界初演されました。この交響曲は四楽章構成ですが、四部作の各曲を単に短縮・連結したものではありません。元の素材を分解し、再構築することで、交響曲としてより強固な構造とメッセージ性を追求した作品となっています。楽章は順に秋、冬、春、夏を想定しているとされていますが、具体的な描写よりも、より抽象的な音楽として展開されます。演奏時間は約27分です。

交響曲の楽章構成と概ねの時間は以下の通りです。

アンダンテ～アニマート～トランクイロ（約7分30秒）
ラルゲット（約6分30秒）
ジョコーソ（約4分）
ヴィーヴォ（約9分）

2018年には、ヤマハ吹奏楽団がこの交響曲第3番を全日本吹奏楽コンクール全国大会の自由曲に選定しました。全曲ではなく、第1楽章と第4楽章から抜粋し、第1楽章の途中に第4楽章の一部を組み込むという構成で演奏され、同年10月28日の大会で見事金賞を受賞しました。この功績は、この作品が吹奏楽オリジナル曲として持つ高い芸術性と演奏効果を広く知らしめることとなりました。

交響曲第3番の録音は、2019年4月に須川展也氏の指揮により行われ、同年9月25日にCD「ヤマハのオト～奏でる匠のオト～ Ⅲ」としてリリースされました。また、ヤマハ吹奏楽団創立60周年記念特別公演として、2020年2月16日に大阪での公演が実現しましたが、続く3月1日の東京公演は、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曾有の状況により中止を余儀なくされました。しかしながら、この交響曲は、吹奏楽の新たな可能性を示す重要な作品として、現在も多くの注目を集めています。

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