四捨五入殺人事件

四捨五入殺人事件

井上ひさしの小説『四捨五入殺人事件』は、1975年7月から9月にかけて『週刊新潮』に連載され、1984年に新潮文庫から出版されました。本作は、架空の温泉地「鬼哭温泉」を舞台にした推理小説であり、特にクローズド・サークルものとして知られています。物語の中心には、2人の作家と地方の市役所職員が巻き込まれる事件が描かれており、緊迫した状況の中で繰り広げられる心理戦とサスペンスが魅力となっています。

設定

物語の舞台は、東北地方の成郷（なるごう）市にある「高屋旅館」という古い温泉宿です。「鬼哭温泉」は、鬼哭川と高塔山に囲まれた自然豊かな地域に位置し、ほとんどが田んぼとして利用されています。この場所は、かつて厳しい年貢に苦しむ農民たちが隠田を開拓した歴史を持ちます。旅館自体は明治35年に建てられた立派な建物で、外観には歴史の重みが感じられます。

主人公の藤川と石上という2人の作家は、成郷市の合併記念講演会に招待され、「高屋旅館」に宿泊することになります。この旅館が舞台になることで、物語は一層の緊迫感と神秘的な雰囲気を醸し出します。

登場人物

作品には多様なキャラクターが登場し、それぞれが物語に深みを与えています。

• - 藤川武臣：40歳前の新鋭作家で、小心者。特に文句が多い過去を持つ。
• - 石上克二：60歳前後の大作家で、気に入らないことにはすぐ文句を言う性格。
• - 岡田：成郷市観光課の課長補佐で、汗っかきな性格。
• - 織田加代・小夜：旅館の女主人とその妹であり、美しい着物姿が印象的。
• - 高梨医師：地域唯一の内科医師として、旅館に関わる人物。

それ以外にも、地域の重要人物たちが続々と現れ、事件の鍵を握るキャラクターとして描かれます。

あらすじ

物語は、2人の作家と市役所の職員が豪雨の中、鬼哭温泉に向かう場面から始まる。旅館に到着するまでの間、石上の不平不満が絶えず・・・それに伴って、車内の雰囲気もギクシャクします。橋を渡った後、旅館に到着すると、アイデアを巡る交流が生まれます。しかし、突如として橋が流され、周囲が不安定な状況になる中、夜の静寂に破られたのは、悲劇の幕開けでした。

真夜中に響く尺八の音と共に、旅館内で凶悪な事件が発生。藤川は、被害者の手に見つけた万年筆に衝撃を受け、思わず真相を探求し始めます。事件が進展する中で、複雑な人間関係や隠された真実が明らかになり、推理が展開されていく様子は、読者を引き込む力を持っています。特に、餅振舞のエピソードや農業問題に絡めた社会的テーマが随所に散りばめられ、物語に深みが生まれています。

テレビドラマとラジオドラマ

この小説は、1987年にNHK総合テレビジョン「銀河テレビ小説」でドラマ化され、さらに2022年にはラジオドラマとして再演されました。どちらのメディアでもキャストやスタッフが魅力的で、作品の雰囲気を忠実に再現しています。特にドラマ版では、物語のクライマックスにおける「鬼舞い」のシーンが視覚的に圧巻で、観客に強い印象を与えました。

井上ひさしの優れた文才と豊かな人物描写は、この作品を通じて多くの読者や視聴者に愛され続けています。このように『四捨五入殺人事件』は、ただの推理小説に留まらず、社会問題や人間ドラマを描くことによって、非常に深い作品となっているのです。

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