回避

回避（かいひ）

回避とは、広義には、何らかの責任や困難、危険な状況などを避けることを指す言葉です。日常生活においても、特定の場所や人物、あるいは精神的な負担を回避するといった形で用いられます。この概念は、単純な身の安全確保から、より複雑な人間関係や法的な文脈に至るまで、様々な場面で登場します。

特に、日本の司法制度においては、「回避」という言葉が特定の専門用語として用いられ、公正な手続きを担保するための重要な仕組みの一つとなっています。ここでは、裁判官や警察官といった職務に携わる人々が、自身の立場や関係性によって職務遂行の公平性が疑われる可能性がある場合に、自らその職務から退く手続きを詳述します。

司法における回避

司法手続きにおいて「回避」が必要とされるのは、関係者の公正な判断や行動が、特定の個人的な事情や関係性によって妨げられる可能性を防ぐためです。これにより、裁判や捜査の透明性や信頼性を確保し、当事者および国民からの疑念を排除することが目的とされます。

裁判官の回避

裁判官の場合における回避は、自己自身について、裁判からの排除が法律で定められている事由（除斥事由）または、公平な裁判を行うことが難しいのではないかという疑念を抱かれる事由（忌避事由）が存在すると考えられる場合に、自らの判断で、担当している訴訟手続きに関する職務執行から身を引くことを指します。

この裁判官の回避については、訴訟の種類によってその取り扱いが異なります。

刑事訴訟における回避

刑事訴訟規則の規定では、裁判官が自らの判断で忌避事由があると認める場合、その職務執行を回避することが義務付けられています（刑事訴訟規則13条1項）。これは、刑事裁判が個人の自由や生命に関わる重大な判断を行う場であるため、裁判官の公平性に対するわずかな疑念も許容しないという強い姿勢を示しています。忌避事由の存在を裁判官自身が認識した場合、自らの意思で職務から離れなければなりません。

民事訴訟における回避

一方、民事訴訟規則の規定では、裁判官が除斥事由または忌避事由が存在すると考える場合、監督権を有する裁判所からの許可を得ることを前提として、その職務執行を回避することができると定められています（民事訴訟規則12条）。刑事訴訟とは異なり、民事訴訟においては回避が義務ではなく、監督裁判所の判断を経て許可が得られれば回避できるという任意の色合いが強くなっています。ただし、これは公平性の確保という目的は共通しており、裁判官の自己判断と上位機関の承認という手続きを経て行われます。

裁判官以外の回避

司法手続きにおいて回避が求められるのは、裁判官に限りません。公正な手続きの維持に関わる他の職種にも同様の考え方が適用されます。

裁判所書記官

裁判所書記官についても、裁判官の回避に関する規定が準用されます（刑事訴訟規則15条1項、民事訴訟規則13条）。書記官は裁判の記録作成など重要な役割を担っており、その職務遂行の公平性もまた、裁判の公正さに影響を与えるためです。

警察官

捜査を行う警察官にも回避の義務が課せられています。犯罪捜査規範では、警察官が被疑者、被害者、その他事件の関係者と親族関係にある場合や、その他の特別な関係を有しているために、その捜査活動に対して国民から疑念を持たれる可能性が生じる場合には、所属する上司の許可を得た上で、当該事件の捜査から身を引かなければならないと規定されています（犯罪捜査規範14条）。これは、捜査の透明性、公正性、そして信頼性を確保するための重要な規範です。

まとめ

「回避」は一般的には好ましくない状況から身を避ける行為ですが、日本の司法制度においては、裁判官や警察官といった特定の職務に携わる人々が、公正な職務執行が困難となる特定の事情がある場合に、自らの判断や手続きを経てその職務から離れる、公平性を保障するための専門的な手続きを指します。これは、国民からの信頼を得て、法の支配の下で適正な手続きが行われるために不可欠な仕組みと言えます。

回避