固定価格買い取り制度

固定価格買い取り制度（FIT）

固定価格買い取り制度は、エネルギーの買い取り価格を法的に定める助成制度です。 Feed-in Tariff や Feed-in Law とも呼ばれ、一般的に FIT と略されます。この制度の主な目的は、地球温暖化への対策、エネルギー資源の確保、環境負荷の低減といった課題に対応するため、再生可能エネルギー（日本においては新エネルギー）の普及を促進し、その導入コストを低減することにあります。

この制度の特徴は、設備を導入した時点から一定期間、助成水準が法律によって保証される点です。また、技術開発や生産コストの変化に応じて、助成水準を柔軟に見直すことが可能です。適切に実施された場合、費用対効果の面で最も普及促進効果が高いと評価されています。現在、世界中で50カ国以上が採用しており、再生可能エネルギーの普及政策として標準的な手法の一つとなっています。

名称

「固定価格制度」「フィードイン・タリフ制度」「電力買い取り補償制」など、様々な名称で呼ばれます。最も一般的な略称はFITです。 Feed in は「供給する、組み込む」という意味、 Tariff は「料金、関税」という意味で、再生可能エネルギー導入に伴うコストを買取価格に「組み込んだ料金体系」を示唆しています。

歴史

この制度の起源は、1978年に米国で制定された Public Utility Regulatory Policies Act (PURPA) 法にあるとされています。特にカリフォルニア州での風力発電開発に貢献しました。しかし、国家レベルで顕著な成果を上げた最初の事例は、1990年にドイツが導入した制度です。当時、再生可能エネルギーの普及策としては、固定枠（クオータ）制や入札制などもありましたが、多くの学術研究や公的機関の評価において、FITが他の制度よりも優れた普及効果を示すことが明らかになりました。特にドイツは、FITを通じて再生可能エネルギーの導入量を飛躍的に増やし、コスト削減も実現しました。この成功を受け、2005年以降に採用国が急増し、現在では最も一般的な再生可能エネルギー支援策となっています。

しくみ

原理

再生可能エネルギーは、化石燃料に比べて価格競争力に劣る場合が多く、普及の大きな障壁となります。普及量を増やすことで、製造コストや流通コストを下げ、技術開発を促すことが望ましいとされています。バイオマス、風力、太陽光などは、普及量の増加に伴って価格が低下する「経験曲線効果」が確認されています。FITは、この経験曲線効果に基づき、電気料金へのわずかな上乗せ（賦課金）で得た資金を助成に充てる方式の一つです。

具体的には、個々の発電設備で生産された電力の買取価格を、設備が導入された時点で長期間固定します。ただし、後から導入される設備については、技術進歩やコスト低減を反映して助成額（買取価格）を段階的に引き下げます。これにより、事業者は長期的な収入の見通しを立てやすくなり、投資や融資を促進できます。一方で、市場価格より高い価格設定が、高コストの非効率な技術や事業者を温存させるという批判も存在します。

制度

FITでは、電力の買取価格（タリフ）は法律で定められます。再生可能エネルギー事業者は、このタリフを定められた期間（例：20年間）保証されます。この価格は、全体の普及状況やコスト動向に応じて定期的に見直され、計画的に引き下げられますが、既に認定された設備には影響しません。タリフの段階的な引き下げにより、国全体の助成費用負担は抑制されます。事業者の投資リスクは低く保たれるため、分散型電源の導入促進に適しています。

一般的に、制度の初期に導入された設備ほど高いタリフが設定され、普及が進み技術コストが下がるとともに、後期の導入分への助成額は減少します。助成に必要な費用は、多くの場合、電気料金に「再生可能エネルギー発電促進賦課金」として上乗せされ、全ての電力消費者から徴収されます。タリフ額は、技術の種類や普及状況を考慮して過大にも過少にもならないよう定期的に調整されます。

タリフの決定方法

主に以下の2つの方式があります。

- Fixed Tariff: 一定期間、買取価格を固定する方式で、多くの国で採用されています。導入時期によってその後の価格が決まるため、事業者のリスクが低くなります。
- Premium Tariff: 市場で取引される電力価格に一定のプレミアム（上乗せ額）を加えて買い取る方式です。Feed-in Premium (FiP) などとも呼ばれます。市場価格に連動するため、電力需要が大きい時間帯の供給インセンティブが高まりますが、市場価格変動による事業者のリスクはFixed Tariffより高くなります。

タリフ決定時には、設備投資額、運転維持費、燃料費（バイオマスの場合）、インフレ率、融資利率、投資家の期待利益率などが考慮されます。また、化石燃料使用に伴う気候変動、大気汚染、エネルギー安全保障への影響といった外部コストの削減分も考慮されることがあります。

全量買い取りと余剰買い取り

自家消費を行う建造物等に発電設備を設置した場合、電力の取り扱いによって以下の2方式があります。

- 全量買い取り: 発電した電力を一旦全て電力会社に売却し、自家消費分は別途系統電力から購入する方式です。ドイツなどで一般的で、余剰電力が少ない産業用設備などに適していますが、節電意識を促す効果は薄いとされます。
- 余剰買い取り: 自家消費分を除いた余剰分の電力を買い取る方式です。日本などで用いられています。自家消費分より余剰分の買取価格が高い場合、節電して自家消費分を減らすインセンティブが働くため、節電効果が期待できますが、余剰電力が少ない場合は不向きです。

近年、電力市場価格との連動性を高めたFIP（Feed-in Premium）制度への移行も進められています。

特徴

利点

FIT制度は、買取価格の長期保証により、関連産業を含むサプライチェーン全体に安定した投資を促します。特に初期投資が大きい太陽光や風力発電において、コスト低減効果が期待できます。また、政府予算に依存せず、民間資金を動員して公共的な目標を達成できる点も強みです。普及促進効果が高く、中小事業者の参入も容易になります。

欠点

買取価格が市場価格を大きく上回る場合、電気料金の上昇を通じて消費者の負担を増大させる可能性があります。また、買取価格の設定が不適切だと、普及速度が計画から外れ、普及費用が膨らむリスクがあります。国境を越える電力融通の障害となるケースも指摘されています。

評価

FIT制度の有効性は、IPCC、国際エネルギー機関（IEA）、欧州委員会を含む多くの国際機関や学術研究によって認められています。特に、コストが高い初期段階の技術普及において、他の制度よりも優れていると評価されています。IEAはかつて否定的でしたが、後にFIT制度の優位性を認め、特にコスト競争力に劣る技術への助成方法として適していると見解を改めています。

各国の導入状況

FIT制度は欧州を中心に広く普及し、現在も採用国が増えています。ドイツやスペインはその初期からの代表的な導入国です。

- ドイツ: 1990年から制度を発展させ、再生可能エネルギーの大量普及とコスト低減に成功しました。電力供給の約3割を再生可能エネルギーが占めるまでになりましたが、賦課金の増加や制度の成熟に伴い、2014年以降、市場取引への移行を視野に入れた制度見直し（入札制の導入など）を進めており、2017年からは原則廃止されています。
- スペイン: 1980年代からFITの要素を取り入れ、風力発電などの導入を進めました。一時は太陽光発電の過剰な助成によりバブルとその後の制度大幅引き下げ、債務問題が発生しました。

日本の導入状況と課題

日本では、RPS法や補助金を経て、2009年に太陽光発電の余剰電力買い取り制度が始まりました。その後、対象を太陽光以外の再生可能エネルギーにも拡大し、2012年7月からは全量買い取りも含むFIT制度が施行されました。

制度開始当初は、新規参入を促すために比較的高い買取価格が設定されました。これにより太陽光発電を中心に導入量が急速に増加しましたが、以下のような問題が顕在化しました。

1. 電力系統の容量不足: 想定を超えるペースでの発電設備増加により、一部の地域で送電網の受け入れ容量が限界に近づき、電力会社が新規接続の保留や停止を行う事態が発生しました。
2. 未稼働案件の問題: 高い買取価格を確保したまま事業を開始せず、権利を転売しようとする事業者などが存在し、制度の健全な運用が妨げられました。
3. 国民負担の増大: 買取費用が電気料金に上乗せされる賦課金として消費者に転嫁されるため、導入量の増加に伴い国民負担が増加しました。特に、設備を設置できない層が負担を強いられるという指摘がありました。
4. 景観・環境問題: メガソーラー開発に伴う山林伐採や、自然災害による設備の破損といった問題も一部で発生しました。
5. 海外資本への利益流出: 高い買取価格による利益が、海外からの参入企業に流出することへの懸念も示されました。

これらの課題に対応するため、日本では制度の見直しが進められています。

- 電力会社との接続契約が認定の条件とされたり、運転開始期限が設けられたりする「改正FIT法」が2017年に施行されました。
- 一定規模以上の設備については、買取価格を入札によって決定する方式が導入されました。
- 2022年度からは、電力市場価格にプレミアムを上乗せするFIP制度が導入され、FIT制度からの段階的な移行が進められています。

風力発電についても、初期の高い買取価格が見直されるなど、制度の改善が続けられています。

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