固定焦点

固定焦点とは

固定焦点とは、ピントを合わせる機構を持たず、あらかじめ特定の距離にピントが合うように固定されたレンズやカメラのことです。一般的に、安価なカメラや特定の用途で使用されます。

原理

レンズには焦点距離（広角か望遠か）と明るさ（F値）があり、これらによってピントが合う範囲、つまり被写界深度が決まります。被写界深度には以下の特徴があります。

焦点距離が長いほど被写界深度は浅く（ピントが合う範囲が狭く）、短いほど深くなる（ピントが合う範囲が広くなる）。
レンズが明るいほど被写界深度は浅く、暗いほど深くなる。
被写界深度は、手前は狭く、後ろに広くなる。

これらの性質を利用し、広角レンズで比較的暗いレンズを使用するか、絞りを使って暗くすることで、数メートル先にピントを固定した場合、近距離の人物撮影から遠景の風景撮影まで、幅広い範囲でピントが合うように設計できます。このような状態をパンフォーカスと呼びます。

パンフォーカス

パンフォーカスとは、広い範囲にピントが合っている状態を指します。固定焦点レンズでは、焦点距離の短い広角レンズを使い、絞りを調整して被写界深度を深くすることで、この状態を実現します。パンフォーカスは必ずしも無限遠までピントが合っている必要はなく、レンズの設計や使用状況に応じて調整されます。あおりなどの技法でパンフォーカスを実現する場合もあります。

ゾーンフォーカス

すべての撮影シーンで固定焦点が適しているわけではありません。例えば、人物のバストショットを撮影する場合、広角レンズでは被写体に近づきすぎる必要があり、固定焦点ではピントが合わないことがあります。また、暗いレンズでは室内撮影でフラッシュが必須になります。そこで、ピントを大まかに調整できるようにしたものがゾーンフォーカスです。

ゾーンフォーカスでは、ピントを数段階に分けて調整できます。例えば、以下のような設定が考えられます。

山のマーク：無限遠から約3メートル付近まで
人物3人のマーク：約3メートルから2メートル付近
人物1人のマーク：約2メートルから1メートル付近

このように、シーンに合わせてピントのおおよその範囲を調整できます。

オートフォーカスの登場とその後

固定焦点やゾーンフォーカスは、コンパクトカメラやハーフサイズカメラなど、比較的安価なカメラで広く使われていました。しかし、オートフォーカスが登場すると、多くのカメラでオートフォーカスが採用されるようになりました。特にズームレンズの登場以降は、オートフォーカスが必須となりました。

現在でも、トイカメラやレンズ付きフィルムなど、非常に安価なカメラでは固定焦点が使われています。適切な設計がされていれば、固定焦点でも十分にきれいな写真を撮ることが可能です。もし写りが悪いと感じる場合は、設計上の問題や、使用状況が設計者の想定外である可能性、あるいはピント以外の原因が考えられます。

また、防犯カメラも、広い範囲を一度に写すため、固定焦点レンズが使われることが多いです。もちろん、ズームレンズや望遠レンズを使用する防犯カメラも存在します。

まとめ

固定焦点は、そのシンプルな構造と、パンフォーカスによる幅広い撮影範囲をカバーできる点が特徴です。一方で、特定の撮影シーンや状況には不向きな場合もあります。オートフォーカスの登場によってその使用は減少しましたが、現在でも特定のカメラや用途で利用され続けています。

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