国際連合人間環境会議

国際連合人間環境会議は、1972年6月5日から同月16日にかけ、スウェーデンの首都ストックホルムにて開催された、地球環境問題に焦点を当てた世界で初めての大規模な政府間会合です。「ストックホルム会議」という通称でも広く知られています。この画期的な会議には、合計113か国が参加し、「かけがえのない地球（Only One Earth）」を会議のスローガンとして掲げました。

当時の地球規模での環境悪化や公害問題への懸念が高まる中で開催された本会議ですが、政府関係者による公式な議論の場だけでなく、会議と同時期に市民社会による独自のイベントも複数開催されました。その一つが「市民広場（ピープルズ・フォーラム）」で、三十を超える民間団体が共催し、ベトナム戦争をはじめとする戦争行為が環境破壊の根源であると訴える反戦運動を展開しました。ここには、日本の公害被害者の方々も参加し、自分たちの経験を語る集会などが催されました。もう一つは「環境広場（エンバイロメント・フォーラム）」で、これはスウェーデン政府や国連協会、そして市民が協力した公私連携型の催しでした。ここでは、科学者によるパネルディスカッションや環境に関する展示、映画の上映などが行われ、より科学的・啓蒙的な視点から環境問題への理解を深める機会が提供されました。また、この環境広場で配布されたミニ新聞には、国連会議の動向が伝えられ、一部には日本の捕鯨姿勢を批判する報道も含まれていました。

本会議は、環境問題という技術的・科学的なテーマを扱いながらも、当時の複雑な国際政治の影響を強く受けました。例えば、国連主催の会議では異例であったにも関わらず、開催国のスウェーデン首相オロフ・パルメは公式演説の中で戦争を環境破壊の要因として言及しました。一方、東ドイツの国連加盟問題を巡ってアメリカと対立していたソビエト連邦とその同盟国であるワルシャワ条約機構諸国は会議をボイコットし、参加を見送りました。さらに、国連に加盟して間もない中華人民共和国が会議に初めて参加し、アメリカのインドシナ政策を厳しく批判。これに多くの発展途上国が同調したことで、会議は政治的な色彩を強める側面も見せました。こうした中で、会議の事務総長を務めたモーリス・ストロングは、中国政府との間に親密な関係を構築する契機を得ることとなりました。

この国際会議の最も重要な成果は、「人間環境宣言」と「環境国際行動計画」が採択されたことです。人間環境宣言は、人間には健全な環境のもとで生きる基本的権利があること、そして環境保護の責任があることを明記しました。これらの合意内容を実行に移すための推進母体として、新たに国際連合環境計画（UNEP）を設立することが決定されました。UNEPは、環境問題を専管する国連機関として、ケニアのナイロビに本部を置くことになりました。これは、発展途上国に本部が置かれた最初の国連機関という点でも画期的でした。会議の事務総長であったモーリス・ストロングが、そのまま初代UNEP事務局長に任命されました。

ストックホルム会議は、人類が環境問題に地球規模で取り組む必要性を認識し、国際的な協力体制を構築する上で極めて重要な出発点となりました。また、会議の開催日である6月5日は、後に「世界環境デー」として記念日に制定され、環境保全の意識を高めるための世界的な啓発活動が行われています。その影響は、その後の環境と開発に関する国連会議（地球サミットなど）へと引き継がれていくことになります。

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