地域圏立音楽院

フランスの地域圏立音楽院等

フランスの公立音楽教育機関である地域圏立音楽院（Conservatoire à Rayonnement Régional, CRR）は、一般に地方音楽院と呼ばれ、子供向けの音楽基礎教育から、将来音楽家を目指すための高等音楽院入試準備、さらに専門家養成のための課程まで、幅広いレベルの教育を提供しています。これらの音楽院は、大学水準の高等音楽院と共に、フランスにおける音楽専門教育体制の基盤を形成しています。

この記事では、地域圏立音楽院に加え、同様に公立音楽教育を支える県立音楽院（conservatoires à rayonnement départemental, CRD）およびコミューン立音楽院（conservatoires à rayonnement communal ou intercommunal, CRC/CRI）についても解説します。

制度の変遷と現状

フランスの音楽教育機関制度は、2006年10月12日に施行された政令によって大きな変化を遂げました。この政令により、それまで国が管轄していた国立地方音楽院（conservatoire national de région, CNR）や国立音楽学校（école nationale de musique, ENM）は、地域圏立音楽院および県立音楽院へと改組されました。これにより、これらの機関に対する国の権限は縮小され、運営と財政の責任が各地方自治体（地域圏、県）へと全面的に移譲されました。以前は国の地域文化行政局（DRAC）が財政を管理していました。

また、この政令によって、従前の市立音楽院（École Municipale Musique, EMM）や都市部の区立音楽院（Conservatoire Municipal de Musique, CMM）も、コミューン立音楽院として一元的に再編されました。

現在、フランス全土には41校の地域圏立音楽院、105校の県立音楽院、そして245校のコミューン立音楽院が存在し、それぞれが所属する地方行政区分（地域圏、県、またはコミューン）によって運営されています。音楽教育が中心ですが、一部の音楽院では舞踊や演劇の教育も提供しています。

教育課程

地域圏立音楽院等における学習課程は、初心者レベルから段階的に専門性を高めていく構成となっています。

準備課程：音楽の基礎や合唱を学びます（期間：1〜2年）。
第一課程（学習準備）：基礎的な音楽能力を習得します（期間：2年）。
第二課程：中級レベルへと進み、より専門的な内容に入ります（期間：4年）。
第三課程（専門課程）：専門分野に特化した学習を行います（期間：3年）。
* 第四課程（上級課程）：高度な演奏技術や表現力を磨きます（期間：2年）。

資格制度の特殊性

地域圏立音楽院および県立音楽院で授与される音楽研究資格（Diplôme d'études musicales; DEM）は、旧制度時代から現在に至るまで、専門課程を修了した学生に与えられる最も上位の資格です。この資格はフランス独自の制度であり、演奏家や音楽の実践者としての能力を国（文化省）が認定するものですが、大学で得られるような高等教育資格は含まれていません。

この点が、一般に他の欧州諸国における音楽大学が授与する、高等教育資格（学士など）を含む国家資格と比較した場合に、国際的な評価や特に教育関係、学歴が考慮される就職において、不利な状況を生む原因となっていました。

これまで、音楽家に対して高等教育資格を正式に授与できる機関は、フランス国内ではパリとリヨンの国立高等音楽院の2校に限られており、その他には音楽・舞踊教育者養成センター（CEFEDEM）や一部の大学音楽研究科があるのみでした。この状況は、地域圏立・県立音楽院で高い専門性を身につけた多くの卒業生が、その実践能力に見合う国際的な評価を得にくいという課題を抱えていました。

改革への動きと現状

このような課題を克服するため、一部の地域圏立音楽院では、欧州の高等教育の標準化を目指すボローニャ・プロセスに基づき、大学との連携を深めることで、専門課程修了者に対して学士や修士の学位を授与できるような制度改革が進められました。

しかし、高等教育資格を授与できる音楽教育機関の数という点では、スイス、ベルギー、スウェーデン、オーストリアといった国々がフランスより多く、さらにスペイン、イタリア、イギリス、ドイツに至っては、学士から博士に相当する高等教育機関が、フランスと比較して依然として10倍近く存在する状況が続いていました。

音楽教育改革への機運が高まる中、フランス政府は2020年に新たな高等音楽教育制度の拡充を発表しました。これにより、既存のパリとリヨンの2校に加え、地方の10校が新たに高等音楽院として指定され、国家資格（高等教育資格）を取得できる音楽大学の数が国内合計で12校に拡大されました。この改革により、地方の優秀な学生にも、より高等な学位取得の道が開かれることとなりました。

地域圏立音楽院、県立音楽院、コミューン立音楽院は、この高等音楽院制度を頂点とするフランスの多層的な音楽教育システムにおいて、基礎から専門課程までの重要な役割を担っています。

もう一度検索