地球の悪魔

地球の悪魔：核開発競争と地下都市、そして謎の怪人

手塚治虫による中編SF漫画『地球の悪魔』は、1954年に『少年少女冒険王』の別冊付録として発表されました。当初の題名は『地球1954』でしたが、翌1955年の単行本化において『地球の悪魔』と改題され、怪人の名称も変更されるなど、一部修正が加えられています。その後、長らく再刊されませんでしたが、1977年に『手塚治虫漫画全集』の一環として再刊され、広く読まれるようになりました。

この作品は、1950年代の核開発競争という時代背景を反映した反戦色の強い物語です。物語の舞台となるのは、十三里村。そこは、政府による地下都市建設工事が、住民の反対を押し切って進められている場所です。この地下都市は、核戦争勃発に備え、人類の文化を保存するための核シェルターとして建設されることになります。

物語は、地下都市建設反対運動の激化をきっかけに始まります。ある日、建設工事のトラックに少年がはねられる事故が発生。この悲劇的な出来事が、反対運動の勢いを増幅させるのです。高野博士とその妹スミ子は、反対派の愚連隊に襲われますが、村人の英二少年に救われます。博士は、地下都市の平和目的を英二に説明し、完成後は村民の移住を約束します。

しかし、英二の双子の弟英三は反対派に加わっており、兄弟間にも葛藤が生じます。一方、東京から来た私立探偵ヒゲオヤジは、反対運動を煽るパチンコ屋夫婦の正体が、女スパイミス・ゾルゲとその手下であることを突き止めます。ヒゲオヤジは捕らえられ監禁されますが、脱出し、地下都市建設現場へとたどり着きます。

そこでヒゲオヤジは高野博士に「デモノバース」という存在について尋ねます。それは、原爆、水爆、コバルト爆弾の発明者たちが遺言で警告していた謎の存在です。「デモノバース」とは「地球の悪魔」を意味するのではないかとヒゲオヤジは推測します。この言葉に、高野博士は強い動揺を示すのです。

その後、反対派が地下都市に乱入し、高野博士とスミ子を捕らえます。この騒動の最中、鬼の仮面をつけたデモノバースと名乗る怪人が現れます。乱入は、ミス・ゾルゲが地下都市を乗っ取るための策略だったのです。彼女は地下要塞を発見しますが、謎の装置の発する光線で跡形もなく消滅します。それはデモノバースが操るガンマ線装置だったのです。

スパイの正体を知った英三は村人に訴えますが、信じてもらえず、一人でパチンコ屋に立ち向かおうとします。兄英二は英三を救出しようとします。さらに、英三の行動を理解した修験者の馬場が警察に通報し、事態は大きく動き始めます。

パチンコ屋は「本部」に連絡を取り、地下都市破壊のための爆撃機を呼び寄せますが、地下都市はびくともせず、爆撃機はデモノバースのガンマ線によって撃墜されてしまいます。

デモノバースは、高野博士を操って地下要塞とガンマ線装置を作らせたことを明かします。彼らの目的は、人間を操って兵器を作り、人類を自滅させることでした。デモノバースは高野博士とミス・ゾルゲを消滅させたガンマ線を、ヒゲオヤジとスミ子にも向けようとします。しかし、英二と英三が配電盤を破壊したため、地下都市は炎上し崩壊を始めます。デモノバースは正体を明かさぬまま姿を消します。

終盤、ヒゲオヤジは高野博士からスミ子への遺書を受け取ります。そこには、デモノバースの正体が高野博士自身であるという衝撃の事実が記されていました。地球外から来た侵略者デモノバースは、地球人の頭脳に寄生し、殺人兵器を作らせて人類を滅ぼそうとしていたのです。博士は、デモノバースへの抵抗として、地下都市が簡単に崩壊するよう仕組んでいたのです。

しかし、村の医師である手塚医師は、デモノバースの実在を信じず、高野博士の二重人格説を主張します。ヒゲオヤジは、このような事件が再び起こるかもしれないと予感しながら物語は幕を閉じます。

この作品には、手塚治虫自身や友人漫画家たちがモデルとなった登場人物が登場するなど、ユーモラスな要素も含まれています。核戦争という深刻なテーマを扱いながらも、人間ドラマやサスペンス、そして謎解きの要素が複雑に絡み合い、読者の心を掴んで離さない、魅力的な作品と言えるでしょう。

もう一度検索