垣ノ島遺跡

垣ノ島遺跡：縄文時代の息吹を今に伝える

垣ノ島遺跡は、北海道函館市に位置する縄文時代の遺跡です。太平洋に面した段丘に広がり、垣ノ島川を挟んで垣ノ島A遺跡と垣ノ島B遺跡に分かれています。この遺跡は、縄文時代早期（約9000年前）から後期（約3500年前）にかけての縄文人の生活と集落の変遷を今に伝える貴重な場所として、2011年に国の史跡に指定され、2021年には「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一つとして世界文化遺産に登録されました。

遺跡の概要

垣ノ島遺跡は、縄文時代の様々な時期の遺構や遺物が発見されており、特に中期（約4000年前）に構築された全長120mを超える大規模な盛土遺構は、国内最大級の規模を誇ります。この盛土遺構は、墓制を示すものとして重要な意味を持っています。また、土器や石器などの生活用具、漆塗りの注口土器、足形付土版、装飾品など、20万点以上の多様な遺物が出土しており、縄文時代の文化や技術を知る上で貴重な資料となっています。

垣ノ島A遺跡

垣ノ島川の左岸に位置するA遺跡からは、縄文時代早期の土坑墓群と、中期から晩期にかけての集落跡が発見されています。316基もの土坑墓群の中には、墓と考えられるものや、フラスコ状土坑、Tビットなどが含まれています。また、竪穴建物跡も発見されており、その中には立石炉や明確な出入り口構造を持つ大型のものも存在します。特に、早期の土坑墓からは、足形付土版が多数出土しています。

足形付土版

約6500年前の幼子の足形や手形をつけた土版が、坑底から17枚も出土しています。これは、東北地方から北海道にかけて出土する足形付土版の中でも、縄文時代早期後半のものとしては珍しいものです。3個重なった状態で発見されるなど、貴重な発見がありました。これらの土版は、厚さ1～2cm、長さ11.0～17.5cmの粘土板で、1歳前後の子どもの足形や手形が付けられています。踵側を土坑墓の壁に向けて副葬されているものが多く、羽状の文様や吊り下げ用の穴が開けられているものもあります。用途については、幼子の成長祈願やお守り、あるいは我が子の形見として用いられたのではないかという説があります。

香炉形土器と漆塗り注口土器

後期後半の透かし彫りの入った香炉形土器は、建物の廃棄儀礼に使われた可能性が指摘されています。また、縄文後期（約3200年前）の朱漆色の注口土器が、A遺跡の住居跡から完全な状態で出土しました。この土器は、黒漆の上に鮮やかな赤漆が塗られた美しいもので、洗練された形状と漆塗りの加工技術、土器表面の文様から、祭祀用の酒を注ぐために使われたと考えられています。

垣ノ島B遺跡

垣ノ島川の右岸に位置するB遺跡からは、縄文時代早期前半（約9000-8000年前）の竪穴建物5軒と土坑墓12基、約6500年前の縄文時代早期後半の土坑墓38基、年代不明の土坑墓42基が発見されました。特に注目されるのは、縄文時代の早期の土坑墓から出土した、約9000年前の漆による装飾品です。

漆工芸の装飾品

土坑墓の埋葬された痕跡から、漆を塗った赤い糸で編んだ装飾品が発見されました。これは、中国の井頭山遺跡で発掘された木器（約8200年前）よりも古い、世界最古の漆工芸品（約9000年前）であることが判明しました。この発見は、漆の利用がこれまで考えられていたよりも遥かに古い時代から行われていたことを示唆するもので、世界の考古学界に大きな衝撃を与えました。

垣ノ島遺跡は、その規模の大きさ、出土品の多様性、そして世界最古級の漆工芸品の発見など、縄文時代の文化や技術、精神世界を理解するための貴重な手がかりを提供してくれる、かけがえのない遺跡と言えるでしょう。

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