堤久雄

つつみひさお

人物概要

日本の造園学分野において、顕著な功績を残した学者、教育者です。長年にわたり大阪府立大学の教授として教鞭を執り、後進の育成に努めるとともに、精力的な研究活動を展開しました。特に日本の伝統的な庭園、中でも京都の西芳寺庭園に関する研究は高く評価され、日本造園学会賞などを受賞しています。

経歴と活動

堤氏は、大阪府立大学の教授として、造園学、特に日本庭園史や庭園美学に関する教育・研究を主導しました。教育者として多くの学生を指導し、彼らが将来、造園分野で活躍するための基礎を築きました。また、学術振興にも尽力し、日本造園学会においても重要な役割を担いました。昭和41年度および昭和42年度には、同学会の関西支部長という要職を務めました。支部長として、関西地方における造園学の研究交流の促進や、造園の普及・啓発活動に積極的に取り組み、地域における造園学の発展に貢献しました。

研究業績と受賞

堤氏の研究活動は、日本の伝統的な庭園文化に深く根ざしていました。彼は日本各地の著名な庭園を訪れ、その歴史的背景、設計思想、そして空間構成がどのように美を生み出しているのかを緻密に分析しました。中でも、世界遺産にも登録されている京都の西芳寺庭園（苔寺）に関する研究は、彼の代表的な業績の一つです。この庭園の独創的な構成や、そこに表現される自然美についての深い洞察を含む研究は、学術的に高く評価されました。これらの優れた日本庭園に関する一連の研究業績が認められ、日本造園学会賞を受賞しました。この受賞は、堤氏が日本の伝統庭園研究において第一人者であることを確立するものであったと言えます。

さらに、堤氏の研究対象は、古典的な庭園だけに留まりませんでした。彼は、公園や緑地といった、より公共的な空間における造園のあり方や、その社会的な意義についても考察を深めました。これらの広範な研究活動を通じた貢献が評価され、1984年には第8回日本公園緑地協会北村賞を受賞しています。このことは、彼の業績が、庭園研究のみならず、現代社会における公園緑地の計画や整備といった分野にも重要な影響を与えたことを示しています。

主要著作と論文

堤氏の学術的な知見は、複数の著作や論文として発表され、後世の研究者に多大な影響を与えています。
主要な著作として、共著による『日本文化としての庭園: 様式と本質』（誠文堂新光社、1968年刊）があります。この書籍は、日本の庭園が単なる物理的な空間設計にとどまらず、日本人の美意識、哲学、精神性といった文化的要素と深く結びついていることを論じた画期的な著作です。庭園を日本文化を理解するための一つの重要な側面として位置づけ、その様式的な特徴と、そこに宿る本質的な意味を探求しています。

また、代表的な論文の一つに「苔寺に見る布置構成と自然美」があります。これは1963年に『造園雑誌』（第27巻3-4号）に掲載されたもので、彼の主要な研究テーマであった西芳寺庭園を具体的な事例として取り上げています。論文では、西芳寺庭園の独特な空間配置、すなわち「布置構成」がどのように設計されており、それがどのように独特な「自然美」を生み出しているのかについて、詳細かつ理論的な分析を行っています。この緻密な分析からは、堤氏の庭園空間に対する深い洞察力と、それを学術的に解明しようとする厳密な研究姿勢がうかがえます。彼の研究は、庭園が持つ造形的な美しさだけでなく、そこに込められた思想や意味合いにも焦点を当てていたことがわかります。

貢献

堤久雄氏の長年にわたる教育、研究、そして学会での貢献は、日本の造園学分野、特に伝統的な庭園の研究において、計り知れない影響をもたらしました。彼の研究は、日本の庭園や緑地空間の価値を再認識させ、その保護や継承の重要性を多くの人々に伝えたと言えます。残された著作や論文は、現在の造園学を学ぶ学生や研究者にとって、今なお重要な文献として参照され続けています。彼の業績は、日本の豊かな自然と文化が生み出した庭園の魅力を、学術的な視点から深く理解するための確固たる礎を築きました。

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