堤川スポーツセンター火災

2017年 12月21日午後、大韓民国の忠清北道堤川市にある複合商業施設において発生した大規模な火災である。この事故により、合計29名の尊い命が失われ、36名が負傷するという甚大な被害をもたらした。特に多数の犠牲者を出した要因として、建物の構造的な問題や初期消火設備の機能不全、さらに施設利用客に対する避難誘導の遅れや不適切さが指摘されており、社会的に大きな波紋を広げた。

施設概要と火災の発生

火災が発生した建物は「ノーブル・フィットネス・アンド・スパ」という名称の地上9階建ての施設であった。この複合ビルには、1階に駐車場と事務室、2階には女性用浴場、3階には男性用浴場が設けられていた。また、4階から7階にかけてはスポーツジムとして利用され、8階と9階には飲食店が入居していた。地下1階には室内ゴルフ練習場や機械室などがあった。

火は午後3時53分頃、1階の駐車場天井付近から出火したとみられている。この駐車場は吹き抜け構造になっており、火が上方へ急速に燃え広がる要因の一つとなった。建物の外壁には燃えやすい建材が使用されていたことも、火の回りを早める結果を招いた。

被害拡大の要因

この火災で被害が拡大した背景には、複数の要因が複合的に絡み合っていたことが挙げられる。まず、火災発生時に初期消火を担うはずのスプリンクラー設備が正常に作動しなかったことが、初期段階での延焼を防げなかった決定的な原因となった。燃えやすい外壁材の使用と相まって、火はあっという間に建物を駆け上がった。

さらに、火災の通報を受けて現場に急行した消防隊の活動も、思わぬ障害に直面した。建物の周囲に多数の車両が路上駐車されており、消防車の進入路が確保できず、現場への到着や消火活動の開始が大幅に遅れたのである。これにより、建物内に取り残された人々が避難する貴重な時間が奪われ、犠牲者を増やす結果につながった。

避難誘導上の問題点

この火災における犠牲者の内訳を見ると、死亡した29人のうち20人が2階の女性用浴場の利用者であった点が特筆される。火災の発生にいち早く気付いたとされる建物の男性オーナーは、同じ建物内の男性用浴場やスポーツジムの利用客に対しては、直接現場へ駆けつけ、避難を呼びかけるという行動を取った。
しかし、女性用浴場については、利用客が裸の状態であることへの配慮からか、オーナー自身が内部へ立ち入って避難を促すことはせず、建物の外から大声で呼びかけるにとどまったとされている。また、この建物には女性職員も勤務していたが、火災発生を認識した後、他の利用客への避難誘導を行うことなく、自身の安全を優先して建物から脱出したことが後に明らかになっている。
これらの状況から、特に女性用浴場の利用者は、外部からの呼びかけが騒音や煙によって聞こえにくかった可能性があり、また内部からの適切な誘導も行われなかったために、避難開始が遅れ、多くの人々が逃げ遅れて犠牲となったのではないかという指摘が強く行われている。

その後の影響

堤川スポーツセンター火災は、韓国国内において、多数の人が利用する既存施設の防火安全対策や避難体制に対する深刻な懸念を改めて浮き彫りにした。この事故からわずか1ヶ月後には、同じく韓国の密陽市で世宗病院火災が発生し、こちらも40名以上の死者を出すという類似の大惨事が連続して発生した。これらの事故は、建築物の防火基準遵守の重要性、効果的な避難計画の策定、そして緊急時における関係者の適切な対応がいかに重要であるかを社会全体に突きつけ、既存施設の安全性の総点検や法規の見直しにつながる契機となった。

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