塩原御用邸

塩原御用邸：皇室の避暑地から視力障害者支援施設へ

塩原御用邸は、1904年（明治37年）に造営された御用邸であり、1946年（昭和21年）に廃止されました。その歴史は、皇室の財産経営、皇族の静養、そして社会福祉へと変遷を遂げました。

御料地編入の背景

1887年（明治20年）以降、全国で広大な官有林野が御料地に編入されました。栃木県内の塩原、日光、那須といった風光明媚な場所が選ばれたのは、皇室の財産増強だけでなく、東京での疫病流行時に天皇や皇族が一時的に避難できる場所を確保する目的もありました。

1890年には、福渡地区の住民が共有地を離宮建設地として献納しようとしましたが、宮内省は官有地以外は編入しない方針を示し、実現しませんでした。この土地は後に町有地となり、塩原温泉天皇の間記念公園として開園しました。

御用邸造営の経緯

虚弱だった皇太子嘉仁親王（後の大正天皇）は、1902年（明治35年）に塩原の中山侯爵家の別荘で避暑をしました。中山家は明治天皇の生母である中山慶子の実家であり、慶子自身も塩原を度々訪れ、その気候の良さを明治天皇に伝えていました。侍医の勧めもあり、嘉仁親王の塩原での避暑が決まりました。

翌年も再び塩原に行啓した際、中山家別荘では手狭だったため、三島子爵家の別荘を借り上げました。嘉仁親王は塩原温泉を大変気に入り、三島家当主の三島弥太郎が別荘献納を申し出たことで、1903年（明治36年）に御用邸が造営されることになりました。

三島家別荘の献上

三島家別荘は、三島通庸が離宮としての献上を視野に入れて1884年（明治17年）に建造したものでした。しかし、当時は箱根に離宮があったのみで、他の御用邸はなかったため、検討されたものの裁可されず、三島家の静養の場として使用されていました。

御用邸の発展と利用

御用邸となった当初は三島別荘を増改築したものでしたが、1905年（明治38年）には新御在所が造営され、翌年にはさらに増築されました。明治35年から明治44年までの9年間で、嘉仁親王の塩原滞在日数は206日にも及びました。

1939年（昭和14年）当時、約1万5500坪の敷地内には源泉もありました。大正天皇や昭和天皇、多くの皇族が避暑目的で利用しましたが、特に幼少期の三笠宮崇仁親王が約10年間毎年夏に利用したことから、「澄宮御殿」と呼ばれていました。

太平洋戦争末期には、女子学習院の生徒たちが疎開し、昭和天皇の皇女たちも疎開先として利用しました。御用邸前庭には内親王用の地下防空壕が掘られ、現在も残っています。

廃止後の変遷

1946年（昭和21年）に御用邸は皇室財産整理のため廃止され、厚生省に移管されました。その後、視力障害者復帰施設「塩原光明寮」となり、1947年（昭和22年）には昭和天皇と香淳皇后が行幸啓され、寮生を励ましました。

1948年（昭和23年）に「国立塩原光明寮」、1964年（昭和39年）に「国立塩原視力障害センター」と改編され、2013年（平成25年）まで使用されました。

遺構と現在

1981年（昭和56年）のセンター改築に伴い、旧御座所棟は塩原町が取得し、「塩原温泉天皇の間記念公園」として一般公開されています。御用邸正門の外灯の一部も移設されています。

那須塩原市は旧御用邸跡地の取得を目指し、天皇の間を再移築し、公園や駐車場を設置することを検討しています。

塩原御用邸は、皇室の歴史と、その後の社会福祉への貢献を今に伝える貴重な遺産です。

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