境界のないセカイ

『境界のないセカイ』：性選択制度と青春の物語

『境界のないセカイ』は、幾夜大黒堂氏による漫画作品です。医療技術の進歩により、18歳で性別を選択できる近未来日本を舞台に、性選択制度を取り巻く若者たちの物語を描いています。

当初はウェブ媒体で連載が開始されましたが、途中で打ち切りとなり、その後別の少年漫画雑誌に移籍。紆余曲折を経て、全3巻で完結しました。この作品は、成人向け作品を手掛ける作者による一般向け作品として注目を集め、性同一性障害者の人権問題にも言及している点が特徴です。

打ち切りと移籍

講談社での単行本化が決定し、作業も完了していたにもかかわらず、発売直前に「表現上の問題」を理由に発売中止が決定されました。これにより、連載元のウェブ媒体における収益見込みが立たなくなり、連載打ち切りという事態に発展したのです。

作者は講談社の決定について、理解しつつも批判的な見解を示しており、一部では作中の特定のセリフが問題視された可能性も指摘されました。しかし、LGBT人権団体は、作品の内容が差別表現に当たらないとの声明を発表し、連載打ち切りの決定に抗議しています。講談社は公式声明を発表しませんでした。

その後、KADOKAWAに移籍し、月刊少年エースで連載が再開、単行本も発売されました。

ストーリー

物語の中心人物は大槻勇次。高校2年生の彼は、18歳を機に女性に性転換した従姉、内田啓子と関わる中で、性選択制度や性の多様性について考えさせられます。

啓子は勇次の兄、洋介への想いを秘めており、その心情が物語に複雑さを加えます。

また、勇次の幼馴染で野球部マネージャーの本城聡美も重要な登場人物です。プロ野球スカウトから男性への性転換を勧められ、葛藤する聡美の姿は、性選択の現実的な側面を浮き彫りにします。

さらに、勇次の初恋の相手である橘高晶輝が登場します。幼い頃に性転換手術を受けさせられた複雑な過去を持ち、女性に戻ることを望むも、医学的な困難に直面する彼女の苦悩は、物語の重要なテーマとなっています。

登場人物

大槻勇次: 主人公。野球部所属。啓子、聡美、晶輝と関わり、自身の成長を遂げていきます。
内田啓子: 勇次の従姉。性転換手術を行い、女性として生きています。複雑な過去と心情を抱えています。
本城聡美: 勇次の幼馴染。野球部マネージャーで、プロ野球選手を目指すことを決意します。
橘高晶輝: 勇次の初恋の相手。幼少期に強制的に性転換手術を受けさせられ、女性に戻ることを望んでいます。
* 大槻洋介: 勇次の兄。啓子の気持ちを受け止め、物語に重要な役割を果たします。

性選択制度

本作における性選択制度は、ナノマシンとiPS細胞技術を用いた高度な医療技術によって実現しています。18歳以上であれば、自身の性別を選択することが可能で、身体機能も完全に変化します。

しかし、この制度は完璧ではなく、技術的な課題や社会的な偏見も存在することを作品は示唆しています。性選択に対する様々な意見や考え方が描かれ、読者に考えさせる要素となっています。

2021年の関連作品

2021年には、『境界のムコウへ：あるMtFとアテンドの性転換体験記』が発表されました。これは、『境界のないセカイ』のキャラクターを基に、性転換経験を描いた作品です。

まとめ

『境界のないセカイ』は、性選択制度という近未来的な設定と、登場人物たちの青春模様を丁寧に描いた作品です。性同一性障害やLGBTQ+に関する問題にも触れつつ、多様な性を理解し、尊重することの大切さを訴えかけています。性選択、そして人生における選択の難しさや大切さを考えさせられる、深く心に響く作品です。

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