変形体

変形体：変形菌の活動形態

変形菌類は、その一生において、様々な形態をとりますが、その中でも特に特徴的なのが「変形体」です。変形体は、変形菌類が活動、成長する際に現れる栄養体で、微生物などを捕食しながら、アメーバ状に移動する特徴的な形態をしています。その名の通り、絶え間なく形を変えながら移動する様子から「変形菌」と呼ばれています。また、移動時に粘液を分泌することから「粘菌」とも呼ばれ、アメーバ様であることから「粘菌アメーバ」と呼ばれることもあります。

変形体の形態

変形体は、通常、平たく広がった形状をしており、大きなものでは数十センチメートルから1メートルを超えるものもあります。基本的には、先端が細く枝分かれした管状構造で、その先端からは原形質が扇状に広がります。この様子は、熱帯のグンタイアリの群れの行軍形態に例えられるほどです。アリの行軍の先端が、変形体の原形質が拡がる部分に、そしてアリの巣が変形体の中心部分に対応すると考えられます。

変形体の表面は、ポリガラクトースを含む粘液で覆われており、乾燥などから身を守る役割を果たしていると考えられています。移動後にはこの粘液が残るため、変形体の通った跡が分かります。内部には多数の核やミトコンドリアが存在し、それらは原形質とともに細胞全体を流れ動いています。これは多核体と呼ばれ、核の数は億を超える場合もあります。変形体は、原形質流動による往復運動で、時間当たり数センチメートルの速度で移動します。

原形質流動：変形体の生命活動

変形体の内部では、活発な原形質流動が見られます。その流速は秒速1ミリメートルを超える場合もあり、植物細胞の原形質流動に比べてはるかに速いです。顕微鏡下では、まるで多細胞動物の血液の流れを見ているかのような錯覚に陥るほどです。

さらに、変形体の原形質流動は周期的な方向転換が特徴的です。一定方向に流れていた原形質は、しばらくすると流れが弱まり停止し、その後、逆方向に流れ始めます。この一方向の流れは、約30秒から1分続きます。

変形体は、朽ち木などの内部や表面に生息します。内部にいる場合は、立体的な網目状構造を形成します。迷路実験では、餌となる物質を迷路の2箇所に置くと、変形体は最短距離を結ぶように原形質のひも状の形態を形成することが示されました。これは、変形菌が複雑な環境下でも効率的に食物を得るための最適な形態を作り出す能力を示しており、その情報処理機構についても研究が進められています。

変形体の種類

変形体は、種によってその形態や大きさが様々です。大きく発達するものもあれば、小さなものしか形成しない種もあります。大きく分けて以下の3つの型が知られています。

原変形体 (protoplasmodium): 微小で、脈構造がなく、原形質流動の往復運動も見られません。二分裂で増殖します。
透明変形体 (aphanoplasmodium): 初期は原変形体に似ていますが、成長すると網状になります。透明で薄く、粘液の鞘を持ちません。
* 可視変形体 (phaenoplasmodium): 一般的な変形体で、多くの場合色素を含み、容易に見つけることができます。

変形菌以外の変形体類似構造

変形体は、ほぼ変形菌類に特有の構造ですが、他の生物にも類似の構造が見られます。例えば、ネコブカビ類やボウフラキンなど、細胞内に寄生する生物の中には、多核体の裸の原形質がアメーバ運動を行うものがあり、これらも変形体と呼ばれます。また、細胞性粘菌の集合体である偽変形体(pseudoplasmodium)や、ラビリンチュラ類の網状構造（網状変形体(net plasmodium)）なども、変形体と比較されることがあります。しかし、これらは変形体とは異なる構造を持つため注意が必要です。

まとめ

変形体は、変形菌類の独特で魅力的な形態です。その生態や原形質流動のメカニズム、そして他の生物との比較を通して、生命の多様性と進化について考察を深めることができます。今後の研究により、変形体の持つ潜在能力や、その情報処理機構などがさらに解明されることが期待されます。

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