夏の果て

小説『夏の果て』の概要とテーマ

『夏の果て』は岡康道による自伝的小説で、2013年9月に小学館から単行本として出版され、2016年には文庫版が刊行されました。この小説は、父と息子の複雑な関係を軸に、主人公が苦悩しながら成長していく姿を描いています。

主人公の背景

物語は、太平洋戦争後にシベリア抑留から帰還した父と教師の母の元に生まれた「僕」を中心に展開します。子供の頃はわんぱくな少年で、家族の愛情に包まれながら成長するものの、父の愛人との関係を目の当たりにし、次第に父に対する疑念が生まれます。父は税理士として成功するも、その金の流れや愛人との生活を通じて、主人公は大人に対する不信感を抱くようになります。

父の失踪と主人公の成長

物語が進むにつれて、主人公は19歳の時に将来の進路を考え始めますが、そんな折に父が突然「借金が5億円あり、自己破産する。君が母と弟の面倒を見なければならない」と告げて失踪します。失踪後の生活は厳しいものでしたが、主人公は父の庇護から解放されたことで、自由を手に入れ、新たな道を歩む決意を固めます。

大学を卒業した後、広告業界に身を投じた主人公は、当初クリエイティブな素養がないと思い悩みますが、やがて独自のアイデアが企業に認められるようになり、成功への道を歩み始めます。それに伴い、夫婦関係はどんどんぎくしゃくし、最終的には離婚に至ります。

父との再会

主人公が順調に仕事を進めるさなか、ふとしたことで父の存在を思い出し、会うことを決意します。父との面会では、様々な感情が交錯します。久しぶりに再会した父は、成功話を一方的に語るばかりで、家族のことには全く興味を示しません。失踪の理由や父の本当の姿が見えないまま、主人公は自らが抱えていた否定的な感情と向き合います。

複雑な感情と最期

父が病気で入院し、再婚相手がいながらもまったく社会的な援助を受けられない状況にいることを知った主人公は、心情が複雑になります。その後、父が亡くなった際も、主人公は父との関係を結論づけることができず、葬儀にも出席しません。母にもこの事実を伝えられず、心に浮かんだのは、自分でも理解しきれない安堵感や脱力感でした。

結論

最終的に『夏の果て』は、主人公が父親との関係を通じて自身の人生を見つめ直す物語であり、父の存在が果たす影響を描いています。主人公は父のような人間にはならないと願いつつも、その中でどう生きるべきかを考え続けるのです。父親という偉大な存在は、果たして息子にとっての呪縛であるのか、自己を発見するきっかけになるのか。『夏の果て』はその問いに対する一つの答えを探る旅でもあります。

もう一度検索