夏時間の庭

老いと死、そして家族の絆を描くフランス映画『夏時間の庭』

オリヴィエ・アサヤス監督による2008年のフランス映画『夏時間の庭』（原題：L'Heure d'été）は、パリ郊外に暮らす75歳の老女エレーヌと、彼女を取り巻く3人の子供たちの物語を描いた作品です。

物語は、エレーヌが自身の死期を悟り、3人の子供たちを呼び集めることから始まります。彼女は、亡くなった叔父から相続した美術品コレクションなどを子供たちに売却してほしいという願いを告げます。しかし、子供たちはそれぞれに異なる考えを抱いており、この遺産相続を巡って、家族間に複雑な感情と対立が生まれていきます。

長女のアドリエンヌはアメリカでデザイナーとして成功を収めていますが、多忙な日々を送っています。長男のフレデリックは、家庭を築きながらも仕事に追われ、複雑な思いを抱えています。そして、次男のジェレミーは中国でプーマのマネージャーとして働いており、家族との距離を感じています。

子供たちは、それぞれの立場や個性、そして過去の思い出を背景に、遺産相続の方法や、母親との関係、そして自分たち自身の未来について葛藤を深めていきます。裕福な家庭環境で育ちながらも、大人になった子供たちは、それぞれが人生の岐路に立たされ、自分の生き方を見つめ直す機会を与えられます。

監督のオリヴィエ・アサヤスは、この映画で、老い、死、そして家族の絆という普遍的なテーマを、繊細で美しい映像と、抑制された感情表現によって描き出しています。ジュリエット・ビノシュをはじめとする豪華キャスト陣の演技も相まって、観る者の心を深く揺さぶる作品となっています。

キャスト

アドリエンヌ：ジュリエット・ビノシュ（長女、アメリカ人デザイナー）
フレデリック：シャルル・ベルリング（長男）
ジェレミー：ジェレミー・レニエ（次男、中国のプーマのマネージャー）
エレーヌ：エディット・スコブ（75歳の母）

そして、それぞれの配偶者や子供たちも物語に重要な役割を果たし、複雑な人間関係を織り成しています。

高い評価

『夏時間の庭』は、その高い芸術性と普遍的なテーマから、数々の映画賞を受賞しています。

第33回セザール賞　助演女優賞ノミネート
第75回ニューヨーク映画批評家協会賞　外国語映画賞受賞
第35回ロサンゼルス映画批評家協会賞　外国語映画賞受賞
第44回全米映画批評家協会賞　外国語映画賞受賞
* 第30回ボストン映画批評家協会賞　外国語映画賞受賞

これらの受賞歴からも、この映画が世界的に高く評価されていることが分かります。

『夏時間の庭』は、単なる遺産相続の物語にとどまりません。老いゆく母と、それぞれの道を歩む子供たちの葛藤を通して、家族の絆、人生の価値、そして時間の流れについて深く考えさせられる、感動的な人間ドラマです。美しい映像と、優れた演技、そして普遍的なテーマが織りなす、忘れ難い作品と言えるでしょう。

もう一度検索