外科室

『外科室』の詳細

泉鏡花による短編小説『外科室』は、1895年に発表された作品で、明治時代を背景にしています。物語は、高峰医師が貴船伯爵夫人に手術を施そうとする場面から始まります。しかし、伯爵夫人は麻酔を拒否します。その理由は、麻酔をかけると無意識に心の内に秘めた秘密を漏らしてしまうことを恐れているからです。遂に麻酔なしで手術することに決めた高峰医師ですが、夫人は彼の右手を掴み、「あなたは、私を知りますまい」と告げ、自らの胸を突いて生涯を閉じるのです。

この瞬間、高峰医師は「忘れません」と返事をし、夫人は微笑みながらも命を失います。そして、その出来事の9年前に二人は偶然に出会っていました。夫人の死後、高峰も同じ日に命を失う運命を辿ることになります。

作品の評価と背景

『外科室』は、短編小説として発表された際、奇妙な構成に対する評価が分かれました。「作品の構造が奇抜だ」と称賛される一方、「登場人物が不自然である」との批判も受けています。賛否両論の中で、この作品は泉鏡花の代表作となり、彼の文筆家としての上昇を助けました。

物語の前半では手術室が描かれ、後半では9年前の回想が展開されます。この物語は、医師と夫人との間に存在する「愛」の物語として考えられることが一般的です。泉鏡花は、愛と婚姻の矛盾について深く考察しており、短編作品や評論にその思想が色濃く反映されています。

彼は『愛と婚姻』という評論の中で、「愛を求めるために結婚しようとすることは、水中の月を捕まえようとする愚か者のようだ」と表現し、恋愛と結婚は本質的に矛盾しているとの見解を示しています。この作品は、通常「観念小説」として分類され、彼の思想を表現するものとして高く評価されていますが、後にその社会的意義については疑問視されるようになります。

映画化された『外科室』

本作は1992年に映画としても適応されました。坂東玉三郎が監督したこの映画は、上映時間50分、入場料1000円という形式が話題を呼びました。キャストには、貴船伯爵夫人を演じた吉永小百合、医師を演じた加藤雅也などが名を連ねています。この映画も小説同様、愛と婚姻のテーマを追求しています。

おわりに

『外科室』は、泉鏡花の独自の視点が光る重要な作品であり、登場人物の複雑な感情や愛の在り方を浮き彫りにしています。また、小説が内包するテーマは現代においても多くの読者に共感を与えるでしょう。

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