夙川河川敷緑地

夙川河川敷緑地：都市と自然の共存が生んだ奇跡の公園

兵庫県西宮市を流れる夙川沿いに広がる夙川河川敷緑地は、正式名称であり、夙川公園として親しまれる全長約4kmにも及ぶ緑豊かな公園です。香櫨園浜から銀水橋まで、約20.8haの敷地に桜並木が続き、春には多くの花見客で賑わいます。川沿いの道路は「夙川オアシスロード」と呼ばれ、公園へのアクセスも良好です。

歴史：開発と保全の狭間で生まれた緑地

昭和初期、日本の多くの都市部では河川改修に伴い、河川敷の売却処分が進んでいました。宅地開発の波は夙川にも押し寄せ、河川敷の払い下げを求める声が上がっていました。しかし、兵庫県と西宮市は、貴重な自然環境の喪失を危惧。夙川の緑地保全に乗り出します。

西宮市は昭和3年から3度に渡り、夙川両岸の公園化を県知事に申請。一方、民間からは河川改修と国有地の払い下げ、埋め立ての申請も提出されました。国家財政難対策として国有地の売却を推し進めていた大蔵省の視察団が夙川を訪れたこともありました。

この状況の中、都市計画兵庫地方委員会は昭和7年に夙川の公園化案を都市計画事業として取りまとめ、内務大臣に申請。同年8月、夙川は都市計画道路として事業が決定されました。右岸と左岸はそれぞれ街路として計画され、約20haの緑地公園が誕生することになりました。

事業期間は昭和7年から昭和12年、総事業費は当初30万3千5百円とされましたが、室戸台風や水害の影響で最終的には34万7千8百97円となりました。財源は都市計画特別税が6割を占め、周辺住民からの受益者負担金も2割を占めています。これは、公園整備による良好な生活環境と水害防止の恩恵を周辺住民が受けると考えられたためです。

公園設計では、水害防止、既存樹林の保存、遊歩道の整備が重視されました。河川敷の幅員は河口付近で25m、上流で9mが確保され、両岸には堅固な石積護岸が築かれました。また、松林をはじめとする既存樹木はできる限り保存され、土地の改変は最小限に抑えられました。現在も、樹高15mほどの松林が多く残り、竣工当時からのものと考えられる奇樹も大切に保存されています。

桜：日本さくら名所100選に選定

昭和24年、約1000本の桜の若木が植樹されました。桜博士として知られる笹部新太郎氏の指導の下、育成され、平成2年には「日本さくら名所100選」に選定されました。臨港線から北夙川橋付近までの約2.7kmに約1700本の桜が咲き誇り、春には多くの花見客が訪れます。かつては多くの露店が出ていましたが、ゴミ問題や景観への影響を考慮し、現在は出店が禁止されています。

公園の現状と課題

現在、夙川河川敷緑地は、西宮市民の憩いの場として親しまれています。しかし、近年は公園周辺の交通渋滞問題や樹木伐採計画など、課題も抱えています。市道拡張と立体交差化による踏切渋滞解消のため、当初は数百本規模の樹木伐採が計画されていましたが、地元住民の強い反対を受け、計画は見直されました。それでも、周辺住民による監視団体などは計画変更案についても懸念を表明しています。

周辺環境

夙川河川敷緑地周辺には、大手前大学さくら夙川キャンパス、カトリック夙川教会、旧山本家住宅など歴史的建造物や教育機関、文化施設が点在しています。これらの施設と調和しながら、夙川河川敷緑地は西宮の街の豊かな自然環境を象徴する存在となっています。

アクセス

阪急電鉄神戸線・甲陽線 夙川駅、甲陽線 苦楽園口駅
阪神電鉄本線 香櫨園駅
* JR西日本東海道本線（JR神戸線） さくら夙川駅

夙川河川敷緑地は、歴史と自然、そして人々の努力によって守られてきた貴重な空間です。これからも、多くの人々に愛され、未来へと受け継がれていくことを願っています。

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