夜 (映画)

ミケランジェロ・アントニオーニ監督による1961年公開の映画『夜』（イタリア語: La notte）は、イタリアとフランスの合作で制作されたドラマ作品です。マルチェロ・マストロヤンニ、ジャンヌ・モロー、モニカ・ヴィッティといった、当時のイタリア映画界を代表する豪華な俳優陣が出演しています。舞台はミラノで、その都市の風景が作品の世界観を深く反映しています。

物語の中心は、結婚10年目を迎えた人気作家ジョバンニと妻のリディアの夫婦関係です。二人の間には、かつてないほどの倦怠感が漂い、愛の不在が大きな影を落としています。物語は、親友トマゾの危篤の知らせを受けたことから始まります。トマゾはかつてリディアに好意を抱いていた人物で、この出来事が、リディアの心の奥底に潜む不安定な感情を揺さぶるきっかけとなります。

リディアは、ジョバンニの仕事に同行してミラノを訪れます。そこで彼女は一人で街を散策し、近代的な高層建築や廃墟と化した建物、そして荒涼とした空き地を目にします。ミラノの無機質な風景は、リディア自身の心の荒廃と重なり合うように描写されています。

その後、二人は富豪主催の華やかなパーティーに参加します。パーティーでは、ジョバンニは若い魅力的な女性バレンチナに出会って惹かれ始めます。一方リディアは、その場になじめず、疎外感を抱きます。パーティーの最中に、彼女は病院からトマゾの死の知らせを受けます。

トマゾの死はリディアに大きなショックを与えます。彼女は深い喪失感に包まれ、ジョバンニとバレンチナの親密さを冷静に受け止めます。そして、パーティーで知り合った男性と夜を過ごします。

翌朝、それぞれに夜を過ごしたジョバンニとリディアは屋敷で再会します。そこでリディアは、トマゾの死をジョバンニに告げ、かつてトマゾと秘かに愛し合っていたことを告白します。さらに、もはやジョバンニを愛していないと打ち明けます。

ジョバンニは、失われた愛は取り戻せると信じ、リディアを情熱的に抱きしめようとします。リディアは「もう愛していない」と繰り返し訴えますが、ジョバンニはそれを拒絶します。そして、かつてジョバンニがリディアへの愛を綴った手紙を読み上げ、二人の間の愛の消滅を改めて突きつけます。

この映画は、高度経済成長期における人間の疎外感や、現代社会における人間関係の複雑さ、そして愛の喪失といったテーマを、視覚的な美しさ、そして俳優たちの繊細な演技を通して表現しています。アントニオーニ監督の独特な演出は、言葉ではなく、映像を通して観る者の心に深く訴えかけてきます。ミラノの街並みの描写は、単なる背景ではなく、物語を象徴する重要な要素となっています。

『夜』は、単なる恋愛ドラマにとどまらず、人間の存在や心の深淵を問いかける、深く考えさせられる作品です。多くの映画賞を受賞したことも、その高い評価を物語っています。ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞、ベルリン国際映画祭金熊賞、ナストロ・ダルジェント賞など、数々の栄誉に輝き、その芸術性の高さが広く認められています。また、ジャンヌ・モローはフィンランドのユッシ賞も受賞しました。1962年には日本でも公開され、日本でも高い評価を受けています。

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