夜想曲第19番 (ショパン)

夜想曲第19番 ホ短調 作品72-1

フレデリック・ショパンの『夜想曲第19番 ホ短調 作品72-1』は、作曲者がわずか17歳だった1827年に生み出された初期の作品です。この作品は、ショパンの生前には公表されず、彼の没後の1855年に初めて世に出されました。友人であったユリアン・フォンタナが、葬送行進曲や3つのエコセーズと共に『作品72』として出版したため、本作は遺作として扱われ、後から作品番号が与えられることになりました。

残念ながら、本作の自筆譜は現在確認されていません。このため、出版にあたってフォンタナによって何らかの手が加えられた可能性も指摘されています。音楽学者ヤン・エキエルは、彼が校訂したナショナル・エディションにおいて、この可能性を考慮に入れながら楽譜の検討を行っています。

楽曲概要

この夜想曲はホ短調、アンダンテ、4分の4拍子で書かれており、基本的な形式は三部形式（A-B-A'）を取っています。

楽曲全体を通して、左手による低音の広い音域を使った三連符の伴奏に乗せて、右手が旋律を歌うスタイルが特徴です。若きショパンの意欲作らしく、途中では属調の平行調であるロ長調へ転調したり、終結部で同主長調に変化するなど、大胆な和声進行が用いられています。

楽曲の構成と分析

第1部

冒頭は1小節の短い序奏に続き、2小節目から主要主題が提示されます。この旋律は簡素でありながら哀愁を帯びた響きを持っています。14小節目からは経過的な楽句となり、ハ長調を経てニ短調、ホ短調へと転調を繰り返し、18小節目後半のドッペルドミナント、19小節目のドミナントモーション（V7→Im）で前半のクライマックスを迎えます。これにより、ホ短調への一旦の帰結を感じさせますが、続く20～22小節目で突然ロ長調へと転調し、主要主題との対比を生み出しています。

第2部

23小節目からは第2部として副主題がロ長調で登場します。この副主題は一見シンプルですが、3度の重音や半音階進行、準固有和音の使用（例：25小節目に見られる短調のIVm）、そして工夫された左手伴奏など、随所にショパンらしい洗練された書法が見られます。

31小節目からは再び主調であるホ短調に戻り、主要主題が装飾音や6連符を伴って変奏再現されます。43小節目からは経過的な旋律がホ短調で続き、後半部分のクライマックスを迎えた後、45～46小節目にかけてホ長調へと転調します。

コーダ

47小節目からは、第2部で提示された副主題が、提示部とほぼ同じ形で、今度はホ長調で再現されます。曲はこのホ長調の響きの中で、静かに閉じられます。

特徴的な終結

短調で始まった楽曲が、終結部で同主長調に転じ、そのまま閉じられる構成は、ショパンがキャリアを通じてしばしば用いた特徴的な手法の一つです。これは本作のような初期の作品だけでなく、『ピアノ協奏曲第2番』の第3楽章や、『練習曲集 作品25』の第12番、『ピアノソナタ第3番』の第4楽章、『チェロソナタ』の第4楽章など、彼の晩年に至るまで様々な作品に見られます。この夜想曲も、若きショパンが既にこのような書法を試みていたことを示しています。

総じて、この夜想曲第19番は、若年期の作品でありながら、ショパンらしい旋律の美しさ、洗練された和声、そして形式への積極的な試みが感じられる、興味深い一曲と言えるでしょう。

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