夜歩く

夜歩く

『夜歩く』は、1948年から1949年にかけて横溝正史によって執筆された長編推理小説で、彼の代表作である「金田一耕助シリーズ」の第3作目として知られています。本作は、特に「岡山編」と呼ばれる一連の作品の一つに位置付けられ、多くの読者から愛され続けています。

編纂の経緯

この作品の執筆は、横溝が少年時代に影響を受けた友人との思い出に根ざしています。彼は疎開先の岡山での生活の中で、古本屋から送られてきた数多の探偵小説に触発され、先に『本陣殺人事件』や『獄門島』で示したテーマをさらに掘り下げることを決意しました。

特に、横溝は「顔のない死体」というトリックを用いることに強く興味があり、通常の結末以上の意外性を求めて試行錯誤を重ねました。しかし、連載の途中で同様のトリックを使った別の作品が発表されたことから、計画を変更する難しさにも直面しました。

ストーリー概要

物語の主人公、屋代寅太は仙石直記から、妹の古神八千代にまつわる驚くべき相談を持ちかけられます。狙撃事件の真相が明らかになるにつれ、多くの手紙がその背後に潜む手がかりと不可解な事実の連鎖を導き出します。事件は、佝僂の画家である蜂屋小市が狙われ、彼の死体と夢遊病の八千代の関連性が徐々に浮かび上がります。

死体の発見や、夢遊病の症状、さらには金庫の日本刀など、物語は多重の謎に包まれています。物語の舞台が東京から岡山の鬼首村に移ると、登場人物の心理や人間関係がより複雑に絡み合い、サスペンスは高まります。特に金田一耕助の登場により、物語は銘作らしい緊張感を持って進展していきます。

登場人物と関係性

主要なキャラクターには、探偵である金田一耕助、岡山県警の警部磯川常次郎、主人公である屋代寅太、古神家の人々が名を連ねます。これらの人物は皆、各々の過去や秘められた感情を持ちつつ、物語の推進力として機能します。

特に古神家の本家とその家老である仙石家の関係は、物語の背景として重要な役割を演じ、両家の複雑な過去が事件を一層ミステリアスにしています。また、夢遊病の症状を抱える八千代の心理状態が、作品の中心的なテーマの一つとなっており、彼女の行動が事件解決の鍵を握ることとなります。

作品の評価

本作はその意外な結末と独特の雰囲気により、後の作品に影響を与えており、横溝自身も自選ベスト10に挙げるなど、高い評価を受けています。戦前から続く探偵小説の系譜の中で、妖しさや通俗的な要素を持ちながら、戦後の世相を反映した作品としても位置付けられています。

また、作品は1978年と1990年にテレビドラマとしても映像化され、多くのファンに親しまれたため、横溝作品の中でも特に認知度が高いものとなっています。彼の作品は、推理小説界における金字塔であり、次世代への影響を与え続けることでしょう。

結論

『夜歩く』は、横溝正史によって描かれた、ただの推理小説にとどまらず、人間の心理や家族の闇を巧妙に描写した作品です。探偵小説の新たな境地を開いたこの作品は、読む者に緊張感と同時に深い感動を与えることができます。

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