夢と消えた百万ドル

夢と消えた百万ドル：トムとジェリーのドタバタ大富豪生活

1944年公開のトムとジェリー短編アニメーション『夢と消えた百万ドル』（原題：The Million Dollar Cat）は、人気シリーズの中でも特に記憶に残る一作です。この作品では、巨額の遺産相続を巡るトムとジェリーの壮絶な攻防がコミカルに描かれ、彼らの関係性を改めて浮き彫りにしています。

物語は、トムが何気なくジェリーをからかっている最中、思わぬ電報を受け取ったことから始まります。その電報は、トムが莫大な遺産を相続したことを告げるものでした。百万ドルという巨額の遺産にトムは狂喜し、軽快な身のこなしで喜びを表現します。しかし、その電報の内容を何とジェリーも読んでおり、同じように大喜びしている様子にトムは戸惑いを隠せない様子。

電報の文面をよく見ると、「他の動物に危害を加えたら相続は取り消し」という条件が記載されていたのです。この条件を巧みに利用したジェリーは、トムの高級マンションに居座り、やりたい放題の悪巧みを繰り広げ始めます。トムのデザートを平らげたり、ベッドを占領したりと、ジェリーの傍若無人な振る舞いはエスカレートしていきます。

トムは、遺産相続の条件を盾にされるジェリーをどうにか追い払おうと試みます。ある朝、浴室を占領されたトムは、ジェリーをマンションから追い出すため、火災を装った策略を企てます。ジェリーはマンションから飛び降り、トムはついに邪魔者を追い払ったと安堵します。しかし、彼の安堵もつかの間、朝食のテーブルには既にジェリーがおり、朝食を横取りされ、さらにいたずらまで仕掛けられます。

ついに堪忍袋の緒が切れたトムは、怒りのあまり遺産相続の電報を破り捨ててしまいます。しかし、ジェリーは電報の破片から「たとえネズミでも…」という条件の文章を見せつけます。この時、トムは完全に我を忘れてジェリーに襲いかかり、彼を家から追い出そうとします。しかし、遺産相続の資格を失ったことに気づいたトムは、最初は落胆しますがすぐに「だけど最高に幸せ！」と開き直り、ジェリーを再び追い回すのです。

この作品におけるジェリーの悪巧みは、他の作品と比較して際立っており、トムの弱点を突いた策略と、神出鬼没な行動が特徴的です。トムは最後までジェリーに振り回され、最終的には遺産を放棄することで、両者相打ちという結果に終わります。

トムとジェリーのキャラクター描写も注目に値します。トムは、巨額の遺産を相続したにもかかわらず、ジェリーの策略によって自由を奪われ、苦悩する姿が描かれています。一方、ジェリーはトムの弱点を巧みに利用し、やりたい放題の行動を繰り返しますが、最終的にはトムの怒りの矛先を一身に受けます。

『夢と消えた百万ドル』は、トムとジェリーのユーモラスなやり取りだけでなく、彼らの関係性の複雑さを浮き彫りにした作品として高く評価されています。また、日本でのテレビ放映も長く続き、世代を超えて愛されている作品の一つです。特に、テレビ放送当初の翻訳とDVD収録版の翻訳では、作品全体のニュアンスに違いがあり、興味深い点です。この作品は、トムとジェリーのシリーズの中でも、特に印象的な一編と言えるでしょう。

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