夢殿殺人事件

概要

『夢殿殺人事件』は小栗虫太郎による短編探偵小説で、1934年に発表されました。この作品は、名探偵・法水麟太郎を主人公にしたシリーズの一つであり、独特な文体が特徴となっています。

あらすじ

事件の舞台は北多摩の軍配河原にある尼寺、寂光庵。この寺は、知恵ある尼僧たちが集う聖地であり、作中では夢殿と呼ばれる密室で二人の人間が殺害されます。最初の被害者は推摩居士という名の50歳ほどの男で、彼は自分を龍樹の生まれ変わりだと主張し、法術で人々を魅了していました。彼は夢殿の階段前に、全身の血液を抜かれた状態で発見され、体には梵字の形に傷が刻まれていました。

次に発見されたのは尼僧・浄善で、彼女は夢殿の2階で頸椎が脱臼するほどの強い力で絞殺されていました。彼女の身には奇妙な索痕が残されていたことも、事件の不気味さを増しています。さらに、3階の孔雀明王の絵からは、孔雀らしき巨大な足跡が床に残され、物語に一層の謎を与えています。

寂光庵の住職・盤得娑婆は、事件が起きたことに深い危機感を抱き、法水麟太郎を呼び寄せ、調査を依頼します。法水は事件の真相を解明するため、現場を詳しく調査し、様々な証言を集めていきます。

登場人物

• - 法水麟太郎: 元捜査局長であり、刑事弁護士。住職からの依頼で事件解決に尽力します。
• - 支倉: 事件を担当する検事。
• - 盤得娑婆: 寂光庵の60歳を過ぎた住職で、文学博士でもあります。
• - 推摩居士: 本事件の被害者。法術を使い、神秘的な存在とされていました。
• - 浄善: もう一人の被害者。絞殺される際の状況が謎を深めます。
• - 智凡尼: 夢殿の第一発見者。
• - 普光尼: 事件発生時に音を聞いたという尼僧。
• - 寂蓮尼: 若い尼僧で、推摩居士の法術に興味を持っていた人物です。

事件の謎

法水は、密室での二重の殺人事件に挑むことになります。犯人の動機や手口、さらには孔雀明王が絵から逃げ出したのかという疑問が、物語全体を通じて法水の推理を駆り立てる要素となっています。

夢殿はただの建物ではなく、さまざまな謎を内包した場所であり、読者にとっても一緒に事件を解く感覚を味わえる仕掛けが施されています。法水の推理を通じて、表面上は見えない真実が徐々に明らかになっていくのです。

まとめ

『夢殿殺人事件』は小栗虫太郎の名探偵シリーズの中でも特に独自の世界観が展開されており、その文体とストーリー展開が高く評価されている作品です。推理の要素と人間ドラマが交錯し、読者を引き込む魅力的な短編小説です。

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