大ベルリン

大ベルリン（Groß-Berlin）

「大ベルリン」という名称は、1920年に単一の自治体として組織されたベルリン市を指します。これは、産業化に伴う急速な都市拡大の中で生じた様々な問題を解決するために、それまでのベルリン市と周辺の多数の自治体を統合して誕生した広域行政体であり、現在のベルリンの原型となっています。現在の市域は、当時の領域とほぼ同じですが、幾度かの境界変更を経て現在に至ります。

成立の背景と道のり

19世紀後半、特にドイツ帝国が成立した1871年以降、ベルリンは首都として急速な産業化とそれに伴う人口増加を経験しました。しかし、この成長は都市計画による全体的な調整が不十分なまま進んだため、ベルリン市と隣接する自治体との間で、インフラ整備、財政負担、社会福祉サービスの提供といった面で大きな格差と非効率が生じました。都市と郊外の地域はそれぞれ独自の利害を持ち、市域拡大に関する議論は1820年代から存在したものの、財政的な理由などから対立が続き、なかなか進展しませんでした。

例えば、社会保障費の負担に苦しむ地区の編入には賛成する郡がある一方で、税収源となる裕福な市民を抱える地区の編入には反対するなど、複雑な思惑が絡み合いました。ベルリン市自身も、財政的に弱い労働者地区の編入を避け、裕福な地域に関心を示すといった状況でした。このような地方政治における長年の膠着状態を経て、1860年には一部の地域がベルリンに編入されました。また、1875年にはベルリンと周辺地域をまとめて新たな州とする構想も持ち上がりましたが、関係者の同意を得られず頓挫しています。

1890年代に入ると、都市全体の総合的な計画や交通網の整備の遅れ、そして自治体間の財政負担の不均衡といった問題が再びクローズアップされました。特に、富裕層が多く社会福祉関連の支出が少ない南部や西部の郊外は減税が可能である一方、中心部や東部の郊外は状況が異なるなど、地域間の格差は拡大していました。

こうした状況に対応するため、20世紀初頭からは統一的な都市計画の必要性が強く認識されるようになり、1906年には都市計画の基本構想を募る設計競技が開催されました。これを機に設立された「大ベルリン建築家委員会」は、国際的な設計競技を主催するなど、都市全体の計画に向けた取り組みを進めました。

1911年には、都市計画や交通、公園緑地などの調整を目的とした「大ベルリン目的連合」が設立されました。しかし、この連合は法的拘束力が弱く、自治体間の社会的な格差を調整する権限もほとんどなかったため、期待されたほどの効果は上げられませんでした。ただし、この連合の活動の中で、現在のベルリンに残る広大な森林地帯が永続的に保全されることになったという重要な成果はありました。

第一次世界大戦の終結とそれに続くドイツ革命によって政治体制が大きく変化したことが、広域自治体としてのベルリン設立を現実のものとしました。

大ベルリン法の成立とその影響

1920年4月27日にプロイセン自由州議会で可決され、同年10月1日に施行された「新都市自治体ベルリンの編成に関する法律」、通称「大ベルリン法」が、まさに「大ベルリン」の誕生を規定した法律です。この法律により、従来のベルリン市に加え、シャルロッテンブルク、シュパンダウ、ノイケルン、シェーネベルク、ヴィルマースドルフ、リヒテンベルクといった6つの独立都市やケーペニック市、さらに多数の農村自治体や領地区域が一挙にベルリン市に統合されました。これにより、ベルリンの市域はわずか66平方キロメートルから約878平方キロメートルへと大幅に拡大しました。

人口も約190万人だったところに、周辺地域から約190万人が加わり、合計約380万人規模の巨大都市が誕生しました。特に周辺の7つの都市からの編入人口は約120万人に上りました。この規模は当時、面積では世界第2位、人口ではロンドン、ニューヨークに次ぐ世界第3位であり、ベルリンは名実ともに国際的な大都市へと変貌を遂げることになります。

大ベルリン法では、統合された地域を再編し、当初20の行政区が設置されました。これらの区は、旧ベルリン市域から6区、編入地域から14区で構成され、区名には編入された地域の中で最大の自治体名が用いられることが多かったようです。区の境界設定においては、社会構造の異なる地域がバランス良く配置されるよう配慮がなされました。この法律の最大の目的は、都市圏全体を見据えた統一的な都市計画やインフラ整備を実現することでした。これは、1920年代にベルリンが文化、科学、経済の中心地として目覚ましい発展を遂げる上で、非常に重要な基盤となりました。大ベルリン法は現在でも有効な法律であり、1990年のドイツ再統一の際にベルリン州の境界を定める上でも参照されています。

「大ベルリン」という名称の変遷と現在のベルリン

「大ベルリン」という名称は、法的に定められた行政単位を指す言葉として長く使用されましたが、時を経て日常的な使用は徐々に減少しました。しかし、公的な文脈では長く残り、例えばドイツ連邦共和国基本法にも1990年の再統一まで都市全体を指す言葉として記載されていました。ただし、実際には東西分裂後、この用語が西ベルリンを指す場合が多く、東ベルリンの行政機関も1977年までは「大ベルリン参事会」という名称を用いていました。現在のベルリン憲法では、都市や州を指す名称として「ベルリン」のみが使用されており、「大ベルリン」は主に歴史的な文脈で、1920年に設立された旧自治体を指す言葉として用いられています。

大ベルリン成立後、市域の境界線は基本的に維持されましたが、歴史的経緯の中で何度か変更されています。特に第二次世界大戦後は、占領当局による地域交換、東西ベルリン間の飛び地解消のための地域交換、そして1990年の再統一に伴う調整や周辺のブランデンブルク州との境界変更などが行われました。また、市境線の機能も、プロイセン州内の市境から、冷戦期の占領区域境界、東西ドイツ間の国境、そして現在の州境へと大きく変化しました。

行政区の境界や名称も、戦後の占領状況、人口増加、新市街建設、そして特に2001年の大規模な区再編（従来の23区から現在の12区への統合）などにより、繰り返し変更されています。

通りの名称の重複問題

大規模な合併による具体的な影響の一つとして、複数の地域で同じ通りの名称が存在するという問題が発生しました。「村通り」や「中央通り」といった一般的な名称や、「ヴィルヘルム通り」のような人名に由来する名称など、重複は広範に及びました。このため、1930年代以降、重複解消のための大規模な名称変更が繰り返し実施されました。特にナチス時代や戦後の東ベルリンでは、政治的な理由から名称が変更されるケースも見られました。現在でも、いくつかの一般的な名称の通りは複数の区に存在しています。かつて30以上あった「駅通り」も大部分が変更されましたが、今も複数の区に残っています。通りの名称決定は各区に委ねられていますが、重複を避けるための規則が定められ、ベルリン全体の道路名簿によって一元管理されています。

大ベルリンの成立は、都市の無秩序な拡大に終止符を打ち、統一的な行政の下で計画的な発展を可能にするための重要な措置でした。それは現代のベルリンが持つ広大な領域と多様な地域性の基礎を築いた歴史的な出来事と言えます。

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