大勧進帳

三橋美智也のシングル「大勧進帳」（1975年）解説

三橋美智也（みはし みちや）が1975年（昭和50年）に発表したシングルレコード「大勧進帳」（だいかんじんちょう）は、彼の特色ある音楽活動を示す一作品です。

本シングルは、三橋美智也が手掛けた「舞踊歌謡」シリーズと呼ばれる企画の一つです。このシリーズは、日本の伝統的な舞踊や演劇を題材に、その世界観を歌謡曲として表現することを試みたものです。歌の世界観を広げ、より豊かな表現を目指す彼の音楽的探求の一環として位置づけられます。

表題曲「大勧進帳」は、日本の伝統的な舞台芸術である歌舞伎の中でも名高い演目「勧進帳」を主題としています。「勧進帳」は、能の演目「安宅（あたか）」を基にした人気演目で、源義経とその家臣・弁慶が、追手から逃れるため安宅の関を通過しようとする物語を描いています。三橋美智也は、この古典的な物語の世界観や登場人物の心情を、自身の歌声と歌謡曲のスタイルを通して表現しました。歌の中には、弁慶の機知や義経への忠誠、富樫とのやり取りといった演目のドラマ性が込められていると言えるでしょう。

このシングルには、A面曲「大勧進帳」、そしてカップリング曲（B面）として「ああ関ヶ原」（ああ せきがはら）が収録されています。両曲とも作詞・作曲は神長瞭月（かみなが りょうげつ）が、編曲は細川潤一（ほそかわ じゅんいち）が手掛けています。同じクリエイター陣によって制作されたことで、シングル全体として統一感のある音楽性が作り出されています。

特に重要な注意点として、本シングルのB面曲として収められている「ああ関ヶ原」は、後年、すなわち1982年（昭和57年）に三橋美智也がリリースしたアルバム「ふるさと絶唱」の中に収録されている同名の楽曲「あゝ関ヶ原」（あゝ せきがはら）とは、全くの別曲であるということです。両曲は共に歴史上の出来事である「関ヶ原の戦い」を題材としていますが、歌詞の内容、メロディー、アレンジメントなど、音楽的な構成はそれぞれ異なります。つまり、これらは偶然同じ題材を扱った別個に制作された二つの楽曲なのです。したがって、資料として扱う際やリスニングにおいて、これら二つの「セキガハラ」を歌った楽曲を混同しないよう、明確な区別が必要です。シングル盤に収録されたB面曲のタイトル表記はカタカナの「ああ関ヶ原」となっており、一方、アルバム「ふるさと絶唱」に収録された楽曲のタイトル表記はひらがなの「あゝ関ヶ原」となっています。このわずかな表記上の違いも、それぞれが異なる楽曲であることを示唆している重要なポイントと言えるでしょう。

このように、1975年にリリースされたシングル「大勧進帳」は、三橋美智也の「舞踊歌謡」シリーズにおける日本の伝統文化へのアプローチ、歌舞伎の代表的な演目を歌謡曲化した試み、そしてカップリング曲に後年の同名異曲が存在するという資料的な側面も含め、彼のキャリアの中でも特徴的な一枚として挙げられます。このシングルは、彼の幅広い音楽活動の一端を示す貴重な記録であると同時に、楽曲データを扱う上での注意点を伴う興味深い事例でもあります。

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