大和川検車区

大和川検車区

大阪市住吉区清水丘三丁目に位置する大和川検車区（やまとがわけんしゃく）は、阪堺電気軌道が運用する路面電車の車両基地であり、現在阪堺電気軌道が所有する全ての車両がここに集結しています。日々の検査や修繕など、車両の運行を支える重要な施設です。最寄りの我孫子道停留場に隣接していることから、「我孫子道車庫」という通称でも知られています。

設立と歴史の変遷

大和川検車区の歴史は、1924年（大正13年）6月に「大和川電車庫」として開設されたことに始まります。これは、阪堺電気軌道のルーツの一つである南海鉄道大阪軌道線が当時使用していた今宮車庫に代わる施設として新設されたものです。その後、1937年（昭和12年）8月には、今宮車庫にあった車両工場機能もここへ移転し、軌道線車両専用の本格的な車庫としての体制が整えられました。

開設当初の敷地は非常に広大で、1955年（昭和30年）頃には100両以上の車両を収容する能力を持っていたと記録されています。現在の阪堺電気軌道の在籍車両数は38両（※時期により変動する場合があります）であり、かつてと比較すると敷地には相当な余裕が生まれています。かつての車庫の敷地は、現在の検車区の東側に隣接する複数のマンションや、福祉施設である「南海ライフリレーションあびこ道」が建つ場所まで広がっていました。特にマンションが立地するエリアには、かつて木造の車両工場が稼働していました。現在の車両工場は1985年（昭和60年）に竣工した新しい建物で、この場所はそれ以前は留置線として使用されていました。このように、時代の流れと共に敷地の利用状況や施設の配置は変化してきましたが、車両基地としての役割は一貫して受け継がれています。

施設内の車両と役割

広大な車庫構内には、現役車両に加え、様々な理由で運用を退いた車両や特殊な車両が留置・保管されています。例えば、部品取り用として活用されている161形163号や、既に営業運転を終えた廃車車両である161形165号、モ351形352号などが見られます。また、貴重な車両としてモ251形256号も大切に保管されています。これらの車両は、過去の歴史を伝える存在であると共に、将来的な活用や記録保存の対象となっています。

さらに、車庫内での車両の移動や整備に不可欠な構内入替車も存在します。具体的には、小型の牽引車両であるTR-1号、TR-2号、そして貨車のような形態を持つデト11形が活躍しています。これらの特殊車両は、一般の乗客が目にすることは少ないですが、検車区の円滑な運営を舞台裏で支えています。

イベント会場としての顔

大和川検車区は、鉄道ファンや地域住民にとって年に一度の楽しみの場ともなります。毎年6月に開催される「路面電車まつり」のメイン会場として、検車区が一般に開放されるからです。このイベントでは、普段見ることのできない車庫の内部が公開されたり、貴重な車両が展示されたり、様々な催し物が行われます。鉄道に関する知識を深めたり、家族で楽しむことができる貴重な機会となっています。

周辺環境

検車区の周辺には、阪堺電気軌道に関連する施設や地域のランドマークが存在します。検車区のすぐ北側には、阪堺電気軌道株式会社の本社ビルが置かれています。一方、検車区の南側には、大阪市と堺市を隔てる大和川が悠然と流れています。この大和川は、古くから交通の要衝であり、近くには紀州街道や大和橋といった歴史的な名残も見られます。このような環境の中に大和川検車区は位置しており、地域の景観の一部ともなっています。

（参考文献: 「阪堺100年」 阪堺電気軌道株式会社 ほか）

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