大川春義

大川春義：復讐を誓った伝説のマタギ

大川春義（1909年 - 1985年）は、北海道苫前町出身の猟師であり、獣害史に残る三毛別羆事件の数少ない目撃者の一人でした。彼は、この事件で犠牲となった人々の仇を討つため、ヒグマ狩りの道を選び、生涯で100頭以上のヒグマを仕留めるという偉業を成し遂げました。彼の活動は、単なる復讐に留まらず、地域住民の安全を守り、獣害を防止するという大きな貢献となりました。

三毛別羆事件と復讐の誓い

1915年、三毛別を襲った悲惨な羆事件。当時、大川春義は、事件対策本部となった自宅で、その一部始終を目撃しました。事件後、父から猟師になることを勧められた彼は、犠牲者への弔いとして、70頭のヒグマを仕留めることを誓います。少年時代から、アイヌの猟師や、三毛別羆事件でヒグマを仕留めた山本兵吉から狩猟の知識を学び、着々と準備を進めていきました。

猟師としての苦悩と成長

20歳で猟銃所持が許可され、最新式の村田銃を与えられた大川は、ヒグマ狩りに挑みます。しかし、実際にヒグマを目の当たりにすると、恐怖で体がすくみ、なかなか銃を撃つことができませんでした。10年以上もの間、そのような日々が続きましたが、1941年、ついにヒグマの親子を仕留めることに成功。この成功が自信となり、その後も着実にヒグマを仕留めていきました。仕留めたヒグマの胆嚢や毛皮は高価で売れましたが、彼は復讐のため、それらを住民に無償で配りました。

戦争と新たな誓い

第二次世界大戦中、大川は召集を受け戦地へ。そこで培った射撃能力は目覚ましく、人々を驚かせました。復員後、父の死を知った大川は、父に報いるためにも、改めてヒグマ70頭を仕留める誓いを立て、狩猟を再開します。戦場で培った度胸を胸に、彼は毎年ヒグマを仕留め続け、1969年にはついに50頭を達成。その後、周囲の勧めでライフル銃を購入し、念願の70頭を達成しました。

100頭達成、そして引退

しかし、北海道内では依然としてヒグマによる被害が続いていました。大川は、周囲の要請を受け、新たに100頭の目標を立てます。60歳を超え、疲労を感じながらも、彼は狩猟を続け、1977年、ついに100頭を達成しました。このうち、76頭は彼が単独で仕留めたものでした。目標達成後、大川は銃を置き、猟師を引退。事件の犠牲者たちの慰霊碑建立に尽力し、1977年7月5日、「熊害慰霊碑」が建立されました。

急逝と残されたもの

1985年12月9日、三毛別羆事件の70回忌の法要の日、大川春義は講演中に倒れ、急逝しました。奇しくも事件の同日に亡くなった彼の死に、人々は因縁を感じざるを得ませんでした。彼の生き様は、吉村昭の小説『銃を置く』のモデルとなり、苫前町の宝として語り継がれています。

人物像と評価

大川は、山中でヒグマを狙う際、非常に禁欲的かつ厳格でした。食料は梅干しのおにぎりと水のみ。雪の中で歩く際は、笹に積もった雪が地面に落ちる音に合わせて足を動かし、匂いを悟られないようタバコも吸いませんでした。多くのヒグマを仕留める一方で、ヒグマを山の神とも崇め、死んだヒグマの慰霊を欠かさず、「山に入ったら、クマの悪口は一切言ってはならない」と語っていました。彼は、ヒグマ狩りを通して、人間の業や自然への畏敬の念を抱いていたのかもしれませんれません。彼の功績は高く評価され、北海道の獣害対策に大きく貢献しました。

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