大戸川

大戸川：滋賀の豊かな自然と歴史を育む河川

大戸川は、滋賀県南部を流れる淀川水系の一級河川です。信楽町の山々を源流とし、大津市で瀬田川に合流するまで、約38kmにわたって豊かな自然と歴史の物語を刻んできました。古くから人々の生活に深く関わってきた大戸川は、単なる水路ではなく、地域社会を支える重要な存在なのです。

地理と歴史：山里から平野へ

大戸川は、甲賀市信楽町多羅尾の険しい山間部を流れ出します。渓谷美を誇るその上流部は、滋賀県道334号多羅尾神山線沿いに位置し、神有川と合流し、信楽町の集落を縫って北上します。紫香楽宮跡を擁する黄瀬地区を過ぎると西へと流れを変え、竜王山や太神山などの山々を縫って流下します。この区間は、滋賀県道16号大津信楽線や新名神高速道路と並行し、交通の要衝となっています。

山間部を抜けると、大津市上田地区で田代川と合流します。この付近には、大正3年竣工の関西電力大鳥居発電所、そして明治44年竣工の関西電力大戸川発電所（滋賀県最初の発電所）が位置し、地域の電力供給を支えてきました。上田地区から下流は、大戸川が運搬してきた土砂によって形成された沖積平野が広がり、良質な米どころとして知られる田上平野が広がります。ここで生産される米は「田上米」として、その品質の高さが評価されています。

約50もの支流を集めながら流れる大戸川は、「田上川」や「信楽川」という呼び名も持っています。多くの滋賀県の河川が琵琶湖に注ぐ中で、大戸川は瀬田川に直接流れ込むという特徴があります。大戸川流域は、大津市と信楽町を含む地域に広がり、その約8割は森林に覆われています。古くは、藤原京や平城京建設のため、大戸川上流域から大量の木材が伐採された歴史もあります。

支流と水勢：多様な自然環境

大戸川には、神有川（中流には「鶏鳴の滝」がある）、田代川、そして日本最古のオランダ堰堤が現存する天神川など、多くの支流が合流しています。

大戸川は、「水七合に砂三合」と言われるほど、水流の勢いが強く、土砂の量も多かったことから、度重なる氾濫に見舞われてきました。そのため、河道の改修や集落の移転など、人々は自然災害との戦いの中で、大戸川と共存する術を模索してきました。

瀬田川との合流：歴史的変遷

大戸川と瀬田川の合流部は、古くから変化を遂げてきました。南郷洗堰の建設以前は、中州が形成され、瀬田川の流水を妨げ、琵琶湖の水位上昇の原因となることもありました。この中州群は「黒津八島」と呼ばれ、瀬田川で唯一歩いて渡れる場所として知られていました。「供御瀬」という別名も持ち、平安時代には、天皇や皇族に献上する氷魚漁が行われていた場所でもあります。

しかし、洪水対策としての浚渫工事や、瀬田川との合流角度の変更など、河川改修によって黒津八島は消滅し、合流地点も下流へと変更されています。

大戸川と人々の暮らし：未来への展望

大戸川流域は、豊かな自然と歴史に彩られた地域です。古くから人々の生活を支え、また幾度となく災害をもたらしてきた大戸川は、現代においても治水や利水、そして地域社会の維持に重要な役割を担っています。これからも、大戸川と人々の共存、そして自然環境との調和が、この地域の未来を担っていくでしょう。

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