大日本帝国憲法第70条

大日本帝国憲法第70条

大日本帝国憲法において、第70条は「だいにほん/だいにっぽん ていこくけんぽう だい70じょう」と読まれ、主に国家の財政運営に関する緊急時の対応について規定した重要な条項の一つです。この条項は、大日本帝国憲法の第6章「会計」の節に置かれ、政府が帝国議会の関与なしに、非常事態において財政に関する決定を下す権限と、その後の手続きについて定めていました。

この条項が定められた背景には、議会が常設ではなかったことや、戦時や国家的な危機といった予測不能な事態において、速やかに財政的な手当を行う必要が生じる可能性が考慮されていたことがあります。憲法において財政は原則として帝国議会の議決に基づくとされていましたが、第70条はその原則に対する例外を設けるものでした。

条文の主な内容は、現代的な言葉で表現すると以下のようになります。

1. 緊急時の財政措置
公共の安全を維持するために緊急の必要がある場合。
かつ、国内的または国際的な状況により、政府が帝国議会をすぐに招集することができない場合。
これらの条件が満たされたとき、政府は天皇の命令である「勅令」によって、財政上必要とされるあらゆる処分を行うことができる。

2. 事後的な議会への報告と承認
上記のように緊急勅令によって財政措置を講じた場合、政府は次の帝国議会の会期が始まった際に、直ちにその勅令の内容を議会に提出しなければならない。
* そして、その勅令について帝国議会の承認を得ることを求めなければならない。

これは、たとえ緊急時であっても、政府による財政措置が最終的には国民の代表機関である帝国議会の統制下にあるべきだという立憲主義的な考え方が反映されている側面も持っています。政府が緊急的に財政支出や財政に関する決定を行ったとしても、それはあくまで一時的な措置であり、後に議会の承認を得られなければ効力を失う可能性があった（または、少なくとも議会による批判や問責の対象となる）ことを意味します。

しかしながら、この条項が実際にどのように運用されたか、特に戦時下などにおいては、政府の権限を拡大解釈する余地を与えた可能性も指摘され得ます。緊急勅令による財政措置は、平時における財政の議会統制という原則を迂回する手段となり得るため、その適用範囲や必要性の判断が重要となります。関連する制度としては、戦時中に大規模な軍事費の支出を可能にした「臨時軍事費特別会計」などが挙げられますが、これは第70条の直接的な適用事例というよりは、戦争という非常事態下における財政制度の一部として、本条項の精神や必要性と関連付けて議論されることがあります。

結論として、大日本帝国憲法第70条は、国家の緊急事態における財政運営という特殊な状況に対処するための規定であり、政府に一定の財政上の権限を認める一方で、事後的な議会統制の仕組みも組み込まれていました。これは、立憲主義体制の下で、いかにして非常時の機動性と平時の民主的統制のバランスを取るかという、どの時代、どの国家においても課題となりうる問題に対する、当時の日本における一つの回答を示すものでした。

もう一度検索