大矢知素麺

大矢知素麺の概要

大矢知素麺（おおやちそうめん）は、三重県四日市市の大矢知地区特産の素麺で、江戸時代末期から「三重の糸」や「伊勢そうめん」として知られてきました。この素麺の特徴は、ひときわ太い麺と、その強いコシです。主に農家が冬季の副業として生産し、地元の農業と密接な関係を保ってきました。

起源

大矢知の手延べ素麺の始まりにはいくつかの伝説がありますが、一つの物語には、江戸時代に旅する僧侶が大矢知の農家に一夜の宿を求め、そこでの温かなもてなしに感激し、素麺の作り方を教えたという説があります。また、他の見解としては、播磨国からの移住者がこの地で素麺作りを始めたというものもあります。この地域は清らかな朝明川の水と四季折々の風土に恵まれ、素麺造りに非常に適した環境です。

歴史的背景

幕末から明治初期にかけて、大塚源造や春日部金五郎といった名が知られる素麺職人が活動を開始しました。特に、兵庫県からの技術者がこの地にやってきて、新たな製法「灘式」の素麺作りを広めました。1897年には、大矢知で185戸の家庭が素麺生産に従事し、その生産額は192,373円に達しました。しかし、品質向上の努力にもかかわらず、次第に品質がばらつき粗悪品が増え、市場での評価も下がることとなりました。

これを憂慮した地元の村長は1910年に同業組合を設立し、品質管理や共同販売などを行い、1912年には生産額が34万円以上に回復し、276戸に増加しました。この時期の素麺作りは、主に冬の農閑期を利用した農家の副業として行われましたが、大正時代に入ると、他の地域でも素麺作りが始まり、製造業者が300戸を超えるまで成長しました。

大正中期からは機械生産の波が訪れ、手延べ素麺の生産が次第に減少していきました。1930年には244戸まで減少し、1940年には185戸にまで落ち込みました。第二次世界大戦中は一時的に休業状態となりましたが、1951年以降、小麦の食糧統制が解除されると、徐々に製麺業は活気を取り戻しました。1955年には100戸以上が製麺業に籍を置くようになり、大矢知素麺の生産量も9kg入りの箱で6万箱を超えるほどになりました。

しかし、時代の流れとともに地域の都市化が進行し、1960年代にはサラリーマン家庭が増える中で、素麺製造に従事する戸数は1970年には約40戸となり、生産量も半減しました。

現在の状況

2023年現在、大矢知素麺は日本の素麺生産量の1%未満とされます。地域では「金魚印」「麦印」「扇印」といった銘柄を持ち、6つ程度の製麺所で製造が行われています。しかし、供給は需給に追いついていないのが現実です。この特性から、地元での消費が中心となり、他地域への流通は限定的です。

大矢知素麺は、多くの人々に愛され続けている地元の名産品であり、その製法や味わいは、地域の文化や歴史と密接に結びついています。今後の持続可能な発展が期待されています。

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