大菩薩峠 (喫茶店)

徳島県阿南市に佇む異質な空間「大菩薩峠」

徳島県阿南市福井町にひっそりと佇む「大菩薩峠」は、レンガ造りの外観が特徴的な喫茶店です。しかし、その背景には、オーナーである島利喜太氏の並々ならぬ情熱と、ユニークな発想が隠されています。この喫茶店は、単なる休憩場所ではなく、島氏の人生観と創造性が凝縮された、まさに「作品」と呼ぶべき存在なのです。

旅がもたらしたインスピレーション

20代の頃、家業の農業を手伝いながら、数年をかけて日本一周の旅に出た島氏。その旅の途中で訪れた山梨県の大菩薩峠の雄大な景色に深く感銘を受け、「いつか自分の山にも万里の長城を築きたい」という夢を抱いたそうです。また、大のコーヒー好きだった島氏は、旅の思い出と、自身の情熱を形にするべく、「大菩薩峠」または「万里の長城」という名の喫茶店を地元で開業することを決意します。

レンガから手作りしたセルフビルド

徳島に戻った島氏は、早速レンガ造りの喫茶店の建築に取り掛かります。しかし、当時、地元のレンガ工場は法人向けにしか生産しておらず、個人である島氏にはレンガを供給してくれませんでした。そこで島氏は、なんと自ら裏山に窯を作り、レンガを焼き始めたのです。喫茶店の建造に使用された約10万個ものレンガは、ほとんどが島氏自身の手によって焼き上げられ、積み上げられ、敷き詰められました。まさに、セルフビルドの極みと言えるでしょう。

5年の歳月をかけた手作り空間

1966年頃から始まった建築作業は、約5年の歳月を経て、1971年10月10日に喫茶店「大菩薩峠」として開店しました。しかし、島氏の創造への意欲は尽きることなく、その後も増改築が続けられ、現在も未完成の状態です。店舗は建物の2階部分に位置しており、レンガで作られた階段か、自動車用のスロープを上がってアクセスします。2階の中庭は駐車場としても利用でき、もちろんここもレンガ敷きです。また、屋上に相当する部分は裏山と繋がっており、「石の庭園」が建設中とのことです。

こだわりの内装と数々の手作り品

建物の主な構造はレンガ造りですが、内装には木も多用されています。喫茶店で使用されるテーブルや椅子も、島氏が木材から削り出し、組み合わせて作られたものです。また、入口の扉は無垢の一枚岩で作られており、これも当初から島氏の構想にあったものです。入口近くには、金属板を切り出して作られた「大菩薩峠」のネームプレートが取り付けられています。これらの細部にわたるこだわりからも、島氏の情熱と、類まれなる創造性が感じられます。

まとめ

「大菩薩峠」は、島利喜太氏の夢と情熱が詰まった、唯一無二の喫茶店です。レンガの製造から建築、内装まで、ほとんど全てを自らの手で作り上げた、まさにセルフビルドの傑作と言えるでしょう。その独特な雰囲気は、訪れる人に強烈な印象を与えます。単なる喫茶店としてではなく、島氏の人生観が反映された「作品」として、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

参考情報

富田建築設計室公式サイト掲載の徳島新聞の記事
四国大陸ウェブマガジン レンガを焼くことから始めたセルフビルドの廃墟の喫茶店「大菩薩峠」
日本珍スポット100景 一人でレンガ10万個！セルフビルド建築「大菩薩峠」【徳島】
まるで廃墟！要塞のような喫茶店「大菩薩峠」

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