大蔵大根

大蔵大根

大蔵大根は、東京都世田谷区周辺で栽培されている伝統的な白首大根です。ずんぐりとした独特の形状と、その歴史的背景から、江戸東京野菜の一つとして数えられています。一時、市場から姿を消しましたが、近年、地元の農家や学校の尽力によって復活を遂げ、再び食卓を彩っています。

特徴

大蔵大根は、一般的な青首大根に比べて、根の長さが約50〜60cmと長く、重さは4〜5kgにもなります。その最大の特徴は、首から尻まで太さがほぼ均一で、ずんぐりとした円筒形をしている点です。そのため、輪切りにしても形が揃いやすく、食材として無駄が少ないのが魅力です。

色は艶のある純白色で、青首大根とは一目で区別できます。根の部分は水分が少なく甘みが強いですが、尻に近づくにつれて辛味が増します。葉も柔らかく、サラダやおひたし、炒め物など、様々な料理に活用できます。根の部分は肉質が緻密なため煮崩れしにくく、おでんや煮物などに最適です。

歴史

大蔵大根のルーツは、練馬付近が原産とされる「秋づまり」という品種に遡ります。「秋づまり」は、円筒形で尻が丸く肉付きが良い白首大根で、煮物や漬物に適していました。江戸時代、この「秋づまり」を改良し、晩生種としたものが「源内づまり」となり、世田谷区大蔵原に伝わりました。

その後、大蔵の農家、石井泰次郎氏が耐病性を高める改良を行い、1953年（昭和28年）に「大蔵大根」として正式に名称登録されました。昭和40年代までは世田谷区内で広く栽培されていましたが、宅地化や核家族化による需要の減少、そして1974年に登場した栽培しやすい青首大根の普及により、次第に姿を消していきました。

しかし、1997年から世田谷の伝統野菜を見直す動きが始まり、区内の農家が改良された交配種（F1）を用いて栽培を再開しました。その結果、大蔵大根は世田谷の地場野菜として復活を遂げました。

栽培

大蔵大根は、根の半分ほどが地上に出る、比較的作りやすい品種です。9月上旬に畑に種を直播きし、11月から収穫を行います。連作障害を避けるため、2～3年の輪作が推奨されています。

種まきは、畑を耕し平畝を作り、畝の中央に溝を切って、5粒ずつ十字型に蒔きます。発芽後、間引きを2回行い、最終的に1箇所あたり1本に育てます。収穫時期は、11月から12月頃で、直径10cm程度になったら収穫します。

現在の状況

大蔵大根は、市場にはあまり流通していませんが、11月中旬から12月中旬にかけて世田谷区内の直売所で購入できます。また、学校給食にも地元の食材として利用されており、直売所ではすぐに売り切れてしまうほど人気があります。

世田谷区深沢にある東京都立園芸高等学校では、2011年4月に「江戸東京野菜プロジェクト」が発足し、生徒たちが大蔵大根をはじめとする伝統野菜の復活と普及に尽力しています。

また、世田谷区内の瀬田地区や小金井市の農家では、伝統的な栽培方法を継承する取り組みが行われており、種子が配布されるなど、大蔵大根の伝統を絶やさないための努力が続けられています。

大蔵大根は、その独特の形状と歴史だけでなく、地元の人々の努力によって現代に復活した、貴重な伝統野菜と言えるでしょう。今後も、その価値が受け継がれていくことが期待されます。

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