大韓帝国の首相

大韓帝国における内閣首班の役割と変遷

大韓帝国（1897年-1910年）において、国家行政の中枢を担い、現代の「首相」に相当する役割を果たした官職は、その短い歴史の中で何度か名称を変えました。これらの官職は、皇帝の権威の下で内閣を統率し、国政全般の運営を指揮する重要な地位でした。

前身：李氏朝鮮時代の「領議政」

大韓帝国が成立する以前、李氏朝鮮王朝の時代には、最高行政機関である議政府の長官を務めた「領議政（영의정、ヨンイジョン）」が、国政における最高位の職であり、後の大韓帝国の内閣首班に相当する役割を担っていました。領議政は、王（国王）を補佐し、国政の枢要を決定する議政府の筆頭大臣として重きをなしました。

大韓帝国期（およびその直前期）の官職名変遷

李氏朝鮮末期から大韓帝国期にかけて、近代化改革（甲午改革など）が進められる中で、行政組織も再編され、内閣首班の官職名も以下のように変化しました。

総理大臣（총리대신、チョンリデシン）
1894年8月15日（旧暦：開国503年7月15日）に設置されました。これは甲午改革の一環として、新たな内閣制度が導入された際の内閣首班の名称です。

内閣総理大臣（내각총리대신、ネガクチョンリデシン）
1895年4月25日（旧暦：開国504年4月1日）に、総理大臣から名称が変更されました。より「内閣」の首班であることが明確にされました。

議政府議政大臣（의정부의정대신、ウィジョンブウィジョンデシン）
1896年（建陽1年）9月24日には、再び官職名が変更され、議政府の長官としての性格を強調する名称となりました。

内閣総理大臣（내각총리대신、ネガクチョンリデ신）
1907年（建陽2年）6月14日に、再び内閣総理大臣の名称に戻されました。これは、日本の韓国保護国化が進む中で、行政組織の再編が行われた時期にあたります。

このように、大韓帝国期（およびその直前期）には、短期間のうちに内閣首班の官職名が変更されるという、当時の政情の不安定さを示す一面が見て取れます。

内閣首班の職務と権限

これらの内閣首班（総理大臣、内閣総理大臣、議政府議政大臣）は、大韓帝国の国政において、皇帝に次ぐ最高位の官職であり、その職務と権限は非常に広範でした。

主な職務内容は以下の通りです。

内閣の統率：内閣全体の首班として、各部大臣を統括し、内閣会議を主宰するなど、政府の方針決定と運営の中心を担いました。
行政各部の指揮・監督：大韓帝国皇帝の指示の下、またはその権威を代行する形で、行政各部（各省庁）の活動全般を指揮・監督し、国家行政が円滑に遂行されるよう責任を負いました。
官吏の任免権：内閣に属する各部署において、特に判任官以下の下級官吏の任免権を有しており、人事権を通じて行政組織に対する影響力を行使しました。
法律・勅令への副署権：皇帝が制定する法律や発する勅令（皇帝の命令）に対して、内閣首班として副署（署名）を行う権限を持っていました。これは、その法律や勅令が政府の責任において執行されることを保証する行為であり、国政における内閣首班の重要性を示すものです。

これらの職務を通じて、内閣首班は激動の大韓帝国末期において、国政運営の中心的な役割を果たしました。歴代の任にあたった人物は、国内外の複雑な情勢の中で、困難な政務を担うこととなりました。

この官職は、1910年の日韓併合により大韓帝国が消滅するまで存続しました。

もう一度検索