天上の青

天上の青

『天上の青』は、曽野綾子による犯罪小説で、1988年から1990年にかけて『毎日新聞』に連載された後、1990年に単行本として出版されました。1993年には新潮文庫版も登場し、さらに映像化もされています。この作品は、曽野が初めて手がけた犯罪小説であり、実際に発生した事件を基にしています。

背景

本作の題材には、1971年に群馬県で起こった婦女連続暴行殺人事件（大久保清事件）が含まれています。また、1988年から1989年にかけて発生した東京・埼玉の連続幼女誘拐殺人事件も影響を与えたとされています。推理小説ではなく、事件の経緯や逮捕に至る過程が時系列に描かれているのが特徴です。

物語は、宇野富士男という犯人と彼に関わった人々、特に波多雪子という女性の苦悩や葛藤を中心に展開します。雪子は庭で朝顔を手入れしている場面から物語が始まり、富士男との出会いを通じて次第に事件の深刻さに気付いていくことになります。

あらすじ

湘南近くの自宅で庭の朝顔を世話していた雪子は、ある日、車に乗った男性に出会います。彼の名は宇野富士男で、朝顔の種を欲しがっていました。冬が訪れた頃、富士男は再び雪子を訪れ、種を受け取りますが、その後も彼は雪子の元を度々訪れることになります。しかし、富士男は女性を狙い、関係を持った後に殺害する残忍な一面を持っていました。

富士男が雪子に見せる優しさと、実際に起こっている犯罪との裏腹な関係が描かれていきます。逮捕された後、雪子は彼の真の姿を知ることになり、事件が進展するにつれて彼女は様々な選択を迫られることになります。裁判が始まり、雪子の行動は彼女自身の人生にも大きな影響を与えることになるのです。

映像化

『天上の青』は、1992年と1994年にテレビドラマとして放送されました。1992年版はフジテレビの『妻たちの劇場』で放送され、石松愛弘脚本のもとで映像化されました。2020年にはDVDも発売されました。

1994年版のドラマは、NHK-BS2で放送され、井上由美子の脚本で製作されました。このバージョンは文化庁芸術作品賞も受賞しており、特に評価されています。キャストには佐藤浩市や桃井かおりなど著名な俳優が名を連ねており、原作の持つ深いテーマをしっかりと映像化した内容となっています。

まとめ

『天上の青』は、単なる犯罪小説ではなく、人間の様々な側面を浮き彫りにした作品です。登場人物たちの複雑な感情や状況が丁寧に描かれ、読者に深い印象を残します。曽野綾子の独特な視点で命の重みや人間関係の葛藤が表現されており、記憶に残る一冊となっています。

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