天城越え (松本清張)

短編小説『天城越え』の概要

松本清張が1959年に発表した短編小説『天城越え』。この作品は、同年11月に『サンデー毎日』の特別号で「天城こえ」のタイトルで初めて公開され、12月に『黒い画集2』の一篇として光文社から単行本が刊行されました。この作品は松本清張の代表作の一つとなり、文学だけでなく、映画やテレビドラマにおいても数回映像化されています。

記録と映像化

『天城越え』は、1983年に映画化され、松竹と霧プロダクションが制作を手掛けました。映画版では、時代設定が原作の大正から昭和15年（1940年）に変更され、少年が成長した後の生活が描かれることになりました。また、1978年にはNHKでのテレビドラマ化、1998年にはTBSでのテレビドラマ化が行われました。さらに、2004年には朗読CDも発売され、幅広いメディアで親しまれています。

あらすじ

物語は、16歳の主人公が初めて天城を越えるところから始まります。彼は静岡に住む兄に憧れ、家業の鍛冶屋を離れ、旅に出る決意をします。天城のトンネルを通過すると、未知の景色が広がり、彼は「他国」のような感覚を覚えます。湯ヶ島の近くで出会った大男に警戒しつつ、彼は少年の心の中に芽生えた感情に向き合います。旅の途中で出会った一人の女性とともに下田への帰路を共にすることで、主人公は新たな感情に気付きます。ここには成長の痛みと、初恋の高鳴りが描かれています。

登場人物

小説の登場人物には、主人公の少年をはじめ、彼の母、宿屋の主人、土地の住人など、様々な人々が登場します。特に、彼が絡む大塚ハナというキャラクターは、彼の成長に影響を与える重要な存在として描かれています。彼女の魅力的な一面や過去が、物語に深みを持たせています。

著者の背景

松本清張は1954年に単身東京に上京後、観光で伊豆を訪れた際の経験を本作の構築に活かしています。特に、天城山中での出来事が作品に反映されており、清張自身が抱く旅の意義や苦悩が色濃く描かれています。著者は「少年が大人に成長する過程の旅愁と性の目覚め」をテーマにしており、その描写には確かなリアリティが感じられます。

研究と影響

研究者の中河督裕は、『天城越え』の根拠資料とされる静岡県警察の「刑事資料」に基づく情報を提供しています。彼は、少年がたどるエピソードと実際の事件との関連性について考察を行い、著者がどのようにしてフィクションと現実を繋げたのかを分析しています。清張の関心が、作品に深みをもたらしていることは明白です。

映像作品の評判

映画やドラマ版はそれぞれ好評を博し、特に映画版では主演女優の田中裕子が高い評価を受けています。公開直後には、当時の中曽根康弘首相も本作品に対して興味を見せ、観賞するなど、その影響力の大きさを物語っています。

まとめ

『天城越え』は、松本清張の文学的な挑戦と、少年の心の動きを見事に描いた短編小説です。この作品は、単なる成長物語に留まらず、時代や社会情勢を映し出した深い作品として、今なお多くの人々に愛され続けています。

もう一度検索