天文学者 (フェルメールの絵画)

天文学者

『天文学者』はオランダの画家ヨハネス・フェルメールによって1668年頃に創作された作品であり、現在はパリのルーヴル美術館に展示されています。この絵画は縦51cm、横45cmのキャンバスに油彩で描かれたもので、17世紀のオランダにおける学者の肖像というテーマを象徴しています。

学者の姿は、当時のオランダ絵画において人気のあるモチーフであり、フェルメールは『天文学者』と並んで『地理学者』という別の作品も描いています。これらの二つの作品に描かれている学者は同一人物であると考えられ、しばしばフェルメールの同時代の科学者、アントニ・ファン・レーウェンフックをモデルにしているとされています。

絵画の中で描かれている人物が天文学者であることは、テーブルの上に置かれたヨドクス・ホンディウス製の天球儀と、アドリアーンスゾーン・メチウスの著書『星の研究と観察』（原題：Institutiones Astronomicae Geographicae）によって示されています。特に、本が開かれている第三章には「神からのお導きによって」天文学者が真実を追求する様子が描かれています。

また、背景には「モーセの発見」をテーマにした絵画がかかっており、古代エジプトの知識を学んだモーセが、知識と科学の象徴として描かれています。このことは、学問や科学の重要性を強調する意図が込められています。

『天文学者』の歴史は1713年にまで遡ることができ、その年の4月27日には、匿名のコレクターによって『天文学者』と『地理学者』が同時にオークションに出品されました。この購入者として名前が挙がるのはヘンドリク・ショールフとされ、1720年には彼の遺産が売却される際にも再度出品されました。この販売目録には、作品が「デルフトのフェルメール作の天文学者として高品質である」との記載があったことが知られています。

後に、1881年から1888年の間にパリの画商レオン・ゴシェが、ロチルド銀行の頭取であるアルフォンス・ド・ロチルドにこの作品を売却しました。アルフォンスが1905年に亡くなった後、その作品は息子のエドゥアールへと引き継がれました。

1940年にナチス・ドイツがフランスを侵攻した際、アルフォンスが所有していたホテルから『天文学者』が押収されました。押収後、絵画の裏面にはナチスの所有物を示す小さな鉤十字が刻印されています。第二次世界大戦が終わった後、『天文学者』はロチルド家に返還され、その後1983年には遺産相続税の一部としてフランス政府に納められました。以降、作品はルーヴル美術館の所蔵品となり、観覧者にその素晴らしさを伝えています。

このように、『天文学者』は単に美術作品としてだけでなく、歴史的背景や文化的意義を持つ重要な作品として、多くの人々に愛されています。

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