天皇劇公演中止事件

天皇劇公演中止事件

1978年（昭和53年）7月6日、日本の首都である東京都港区に位置する俳優座劇場において、一つの文化的な催しが、外部からの暴力的な介入によって中断されるという事件が発生しました。この出来事は、「天皇劇公演中止事件」として記憶されています。

この日、六本木にある俳優座劇場では、「ホモフィクタスACT＆AOI」という名前の劇団が、新たな演目を上演する計画を進めていました。上演が予定されていたのは、『20C悲劇天皇裕仁』と題された作品です。この題名が示す通り、当時の日本の象徴であり、激動の20世紀を生きた天皇裕仁を題材とした演劇でした。この公演は、多くの人々の関心を集めており、開演の時間を待ちわびる約240名の観客が劇場に集結していました。彼らは、この劇が提示するであろう歴史観や芸術的な表現に触れることを期待して、劇場に足を運んでいたのです。

しかし、劇場内の静かな期待感とは裏腹に、外部ではこの公演に対して強い反発を抱く勢力が動き始めていました。演目の題名と内容（右翼団体側の解釈によれば）が、日本の歴史や天皇の尊厳を傷つけるもの、「天皇を誹謗するもの」であると一方的に見なした複数の右翼団体が、その上演を阻止するための行動を起こしたのです。この行動に加わったのは、昭和維新連盟を含む合計6つの右翼団体に所属する人物たちであり、その数は総勢39名に及びました。

彼らは組織的な意思のもと、妨害活動を実行に移しました。彼らは6台の車両に分乗し、俳優座劇場前まで乗り付け、その存在を顕示しました。劇場に到着した彼らは、物理的な方法をもって劇場への立ち入りを試み、大声で「劇場内に入れろ」などと叫び、威圧的な言動を繰り返しました。彼らの抗議活動は、言葉による要求だけに留まりませんでした。さらに彼らは、劇場内外に向けて、観客や関係者の安全を著しく脅かすような危険な行為に及びました。

具体的には、彼らは発煙筒を焚き、劇場周辺や劇場内に向けて投げ込みました。発煙筒から立ち上る煙は、劇場周辺を騒然とさせ、視界を妨げるとともに、混乱を引き起こしました。また、彼らは爆竹も劇場に向けて投げ込みました。爆竹の破裂音は、劇場内の人々に強い衝撃と恐怖を与え、事態の緊迫度を一気に高めました。これらの暴力的な行為は、表現の自由という基本的な権利を行使しようとする人々に対し、物理的な力をもってそれを封じ込めようとする明確な意図のもとで行われました。

このような組織的かつ暴力的な妨害活動が、劇場という公共の場で行われたことにより、劇場側は観客や出演者、スタッフの安全を確保することが不可能と判断しました。混乱が拡大し、さらなる不測の事態が発生するリスクを回避するためには、他の選択肢はありませんでした。結果として、この日予定されていた「20C悲劇天皇裕仁」の公演は、右翼団体の妨害行為によって強行的に中止に追い込まれました。公演を観るために集まっていた約240名の観客は、楽しみにしていた舞台を観ることが叶わず、事件の直接的な被害者となりました。

天皇劇公演中止事件は、特定の芸術表現や思想信条に対し、言論ではなく暴力をもって対抗しようとする勢力の存在を改めて浮き彫りにした出来事です。同時に、表現の自由が脅かされた際に、それをどのように守っていくかという民主主義社会における重要な課題を提起しました。この事件は、単なる劇場でのトラブルに留まらず、日本の社会における言論、表現、そして暴力の問題を考える上で、記憶されるべき事例の一つとなっています。

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