太占

太占：古代日本の神秘的な占い

太占（ふとまに）とは、獣の骨に熱を加え、生じる亀裂のパターンから未来を占う、古代日本の卜占（ぼくせん）の一種です。別名、太兆（ふとみ）、布斗麻邇（ふとまに）とも呼ばれます。特に鹿の肩甲骨を用いることから、鹿占（しかうら）とも称されています。「ふと」は、この占いの方法に対する美称です。

占いの方法: 太占では、通常、牡鹿（おじか）の肩甲骨を、波波迦（ははか）という樹皮を燃やした炭火で熱します。そして、骨に現れた亀裂の模様（町形（まちがた））を解釈することで、吉凶を判断しました。『古事記』の天岩戸神話では、国生みにおける神々の重要な意思決定において、太占が用いられた様子が描かれています。

歴史的記録: 太占に関する記述は、日本の歴史書に複数見られます。『古事記』では、伊弉諾尊（いざなきのみこと）と伊弉冉尊（いざなみのみこと）が、より良い子孫を得る方法を天つ神に問うた際に、太占によってその方法が示されたと記されています。『日本書紀』にも同様の記述があり、神々が太占を用いて具体的な日時を定めたことが記されています。『魏志倭人伝』にも、「骨を灼いて以って吉凶を占う」という記述があり、これが太占を指していると考えられています。

考古学的証拠: 太占を含む骨卜（こつぼく）の文化は、中国大陸または朝鮮半島から日本列島に伝来したと考えられています。弥生時代から平安時代にかけての遺跡から、太占に使用されたとみられる卜骨（ぼっこつ）が出土しており、それらの表面には、火箸状の熱した金属を押し当てた痕跡である点状の灼痕が見られます。使用された獣骨は、主に鹿や猪の肩甲骨ですが、イルカや野兎の骨を用いた例も稀に見られます。鳥取県青谷上寺地遺跡や奈良県唐古・鍵遺跡など、弥生時代前期から古墳時代前期にかけて多くの出土例があり、古墳時代中期に一時減少したものの、古墳時代後期以降は再び増加し、奈良時代以降は牛や馬の骨も用いられるようになりました。

現代の太占: 中国から亀卜（きぼく）が伝来し、神祇官の卜部氏がこれを管掌するようになると、太占は衰退していきました。しかし、現在でも東京都青梅市の武蔵御嶽神社の「太占祭」と、群馬県富岡市の一之宮貫前神社の「鹿占習俗」（県指定重要無形民俗文化財）として、その伝統がわずかに受け継がれています。これらの神事は、古代の占いの伝統を現代に伝える貴重な存在です。

太占の意義: 太占は、古代日本の社会において、重要な意思決定や未来予測に用いられた、神秘的な儀式でした。その歴史は古く、考古学的発見や歴史書の記述から、太占が日本の文化や歴史に深く根付いたものであることが分かります。現代においては、その痕跡はわずかに残るのみですが、太占は古代の人々の世界観や信仰を理解するための重要な手がかりを与えてくれるでしょう。 太占の研究は、古代日本の宗教、社会構造、文化交流などを解明する上で重要な役割を果たしています。今後、更なる研究の発展が期待されます。

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